吟遊詩人は今日も信者を増やす
毎度タイトルに困るごっすん
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一部開いたままのカーテンから射し込む朝日が私の肌をなで、出血ダメージが入り始めた。光が当たっている部分が血塗れになり、定期的にブシュッという音が耳元に響く。ちょっとした目覚まし時計だ。
アバターの脊椎反射ともいえる欠伸を噛み殺した私は、寝台から降りて大きく背伸びをして窓際へ向かった。
私はカーテンを一瞬だけ開けて空模様を確認し、今度はきっちりと閉める。こうしておかないと、着替えている間に足の先まで血塗れになってしまう。
現実では平日の夜のようだが、『ファンタジーア』の中では早朝。
第一サーバーはそこそこ盛況のようで、視界右上に浮かぶ真っ赤なタカは時折その回転を止めていた。
カカオ調理実装のアップデートまで少し日がある。今日はカカオ集めのついでに、風景でも写真にとろうか。
私はいつもの調子で、部屋に備え付けてある大きな木の箱を開いた。中は衣装代わりの魔布……のはず……なのだがなんと、ほとんど空だった。
具体的に言うと、箱の底には布を止める為のブローチが幾つか転がっているだけ。
そういえば昨日、血塗れになった服を洗濯しに行くのを忘れていた。生活面でも戦闘面でも、出血ダメージを有効活用しているとこういう時に困る。
私が身につけられるものは今着ている寝巻き代わりの服しかないということ、か。
私は自分の服を改めて確認する。
かなり初期の頃に、踊り手の特殊なイベントで手に入れた『天人の衣』という防具だ。
いや、これは防具と言っていいのだろうか。
下はまだいい。裾が絞られている、股下の緩いズボンだ。
問題は上で……布面積は殆どない。風呂上がりのお爺さんだって、もっとたっぷりタオルを巻いているだろう。これはもはや上半身裸のようなものだ。
正直、これを着て人前に出たことは一度もない。
元々踊り手の服は男女関係なくきわどいデザインだ。よって皆、よほどの勇者か、性能面で優れているのでない限りは普段使いなどしない。
私は腕を組んで唸った。
この服には、スタミナが固定化されるという、上級者には傍迷惑な能力がついている。しかし、体力のない私にはかなり有能な防具だ……。
服を洗う場所は『オールドローズ』南門から出てすぐに流れている川の、うんと上流。浄化能力の高いそこの水でしか吸血鬼の血は落ちない。
この服を着ていればあの距離でも傘を差した状態でいけるだろうか。もう片方の手で台車を押しながら、踊り手の緊急回避で水場まで……しかし男の半裸など、誰が見たがるだろうか。
いや、この際、他人の目など気にすまい。
……昨日手に入れたレトロなカメラは、また今度使うとしよう。
私は宿の人間に手紙を託すついでに、傘と台車を借りて外を出た。
普段よりも遥かに緊張感のある冒険に出発だ。
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その時、空気がどよめいた。
修繕された宿屋と従業員を写真にとろうとしていた我々を出迎えたのは、真顔の神だった。大きな台車に真っ赤な布を積んで、真っ黒な傘を差している。
あぁ、いつもの洗濯ね。大衆のそんな呟きは一瞬にして吹き飛んだ。いや、黙り込まされた、か。
半裸。まごうかたなき半裸だ。
隣でゲーム外からデータベースを高速参照した同僚が、ぽそりと『天人の衣』と言った。それは服の名前なんだろうけれど、自分には聞き覚えのないものだった。そもそもあれは服?
下はともかく上が……紐、いや、純白のレースを貼り付けた何かにしか見えない。
一般人が来たらセクハラだと訴えられかねないデザインのそれを身につけている神に、非難の声をかける者はいない。
めちゃくちゃ似合ってるし!
我々は一斉に、古い技術を復元して作られた解雇主義者の結晶であるカメラの……シャッターボタンを押し込んだ。
瞬間的にフラッシュ機能はオフにされていた。吸血鬼の日照ダメージが誘発される可能性がある。こんなことなら実験をしておくべきだった!
我々の中には、神が通った道をカメラにおさめている者もいた。見れば、通りは死屍累々ではないか。
人も、人でない者も倒れている。年齢層はバラバラで、女性だけでなく男性もいた。だが、決まって頭に地面を埋めた姿だった。
通りはボコボコと穴が開いていた。
我々は、鼻血でも池が出来るのだと初めて知った。
そして何故か自分の手が勝手に動き、課金スキルの『崇拝』をポチっとした。
不可抗力だった。
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『オルフェウス様非公認ファンクラブ』
三度の飯よりオルフェ好き。そんな貴方にうってつけ!
以下の条件に一つでも当てはまったそこのアナタ!
ファンタジーア内でギルドマスターのランランか㌢麺樽に耳打ち下さい。
パスワード教えますよ!
Ⅰ.遠くからオルフェウス様を『崇拝』したい!
Ⅱ.出来るだけお側で『崇拝』したい!
Ⅲ.オルフェウス様の美声を聴きながら『崇拝』したい!
Ⅳ.竪琴で殺られたい!
Ⅴ.あなたのたてごとになりたい。
《パプリカ》あの髑髏野郎、マジ経験値泥棒
全然ダメ出てなかったんすけどー
《ランラン》ハデスさんはタンクだから火力は…w
《索餅 》パッツァンは本当に火力厨だぬ
《ランラン》肉盾も結構大事なんだけどね
《ふんたー》オルフェ様いればなぁー
《ランラン》前の時ライフめっちゃ減ったよね
ボスの!
《パプリカ》オルフェ様の火力は神々しい
《ピンカル》抜きだと難易度高いよねー♩
《・w・ 》あいつ、あのお方が居るの大前提のボス?笑
《ボーレタ》それな!
《ランラン》なるほどwww
《名無しの》なお当人はカカオに夢中の模様
《ふんたー》カカオになりたい
《ランラン》お、いいね☆文章追加しとこ♩
《石像わっ》また邪念察知した神の目線が険しく……
《索餅 》蔑んだ目で見られるあの快感
《†シュバ》病気だな
《青色三合》今更やな
《名無しの》シュバリエさんだーわーわー
《石像わっ》シュバさん?初めまして!
《ふんたー》おっ!おひさ!
《ボーレタ》お初です
《ランラン》おっ、騎士ちゃん青ちゃんちーす☆
騎士ちゃんはおひさ!
元気してた? 犬ちゃん元気?
《†シュバ》ご無沙汰です
初めましての方は初めて
相変わらずヤク漬けですが何とか。
《青色三合》ちーすみんな昨日ぶり☆
おひさってシュバルツヤク漬け?!
《†シュバ》ちげーよ犬だよコノがん細胞!
《青色三合》おまえ主語ぬけてん
《ランラン》まーまー☆
なんか懐かしいなーこの感じ!
戻ってきてくれてうれしー!
《†シュバ》あれ、メンタルさんいなんですね
今めっちゃ広告打ってますし
《ランラン》そーそー、麺ちゃん最近ご無沙汰
やっぱ春は忙しいみたい
そーそ、広告すごいよねー
《㌢麺樽 》我を呼んだか
《ランラン》ぶはwww
《†シュバ》音声認識召喚かよ!
《青色三合》ぶっ
《パプリカ》出たな行き遅れ!
《ふんたー》わぁ
《㌢麺樽 》挨拶は抜きにするぞ。
本業だ!
《ランラン》本業?先生?
《㌢麺樽 》違わんが違う!
狂信者や騎士共が騒いでおったから
見に来たのだ!
《†シュバ》え? 知らんけど
《ボーレタ》その二つって同じものじゃ
《㌢麺樽 》恐らくまだ出回ってないんだろう
シュバリエはギルド股かけだから
情報が遅いのかもしれんな
我らがアイドルがほとんど半裸で出歩いておる
《青色三合》?!
《ボーレタ》!?
《索餅 》!!?
《ピンカル》^o^
《ランラン》本当だ速報きた!!!
《†シュバ》あ、マジだwww
《ランラン》どこさ?!
《パプリカ》半裸。踊り子か
《ふんたー》踊り手な!
《㌢麺樽 》ふるばらの南もん外
《ピンカル》騎士邪魔!見えない!
《†シュバ》すまねぇ……すまねぇ……
リアル上司から神の肉壁しろって言われたんだ……
傘さしてるな、珍しい
《ふんたー》昨日も差してたけんど
《石像わっ》リアル上司なら仕方ない
《名無しの》うわぁ神々しい
《㌢麺樽 》あのステップ、踊り子の『舞』だな
緊急回避とはそう使うものなのか(困惑)
《ランラン》服ないと男の人だぁ
ステップしながらリヤカー押す姿もふつくしい
《†シュバ》全裸みたいにいわないでください!
オルフェ様、流石に周囲警戒してるな
《石像わっ》そらこんだけ人集まれば
《索餅 》身動き取れないようにならんのが凄い
《名無しの》流石に聖なる騎士()の統率力はすげーw
《ふんたー》自警団と騎士団って何が違うんだ
《†シュバ》ありがとういい薬です
《青色三合》おめーは褒めてねぇよ!
《†シュバ》うるせぇ!
あぁ、洗濯か?
《ランラン》でもあの格好は初めてだね☆
《†シュバ》リアル鼻血ブーしそうだ
《青色三合》そのまま死ね
《†シュバ》おまえこそ竪琴にやられて死ね!
《青色三合》本望だ
《ランラン》あっ水中呼吸
《†シュバ》ハデスwww
ハデスwww
《青色三合》ハwwデwwスww
《ピンカル》なんか川から上がってきたぁw
《㌢麺樽 》す、水中呼吸とろうかなぁ
《索餅 》ハデスがwww
《名無しの》くっそ、ハデスが川にいるwwwwww
《ふんたー》竪琴、台車にあったのか神様w
《パプリカ》ハデスやっと死んだな。ざまぁ
《・w・ 》しまった寝落ちしかかってた!
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ファンタジーア古薔薇新聞
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