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002 ジネット

 ライトがアベルと出会ってから一月がたった。

 ライトはアベルの父の領地で平穏な毎日を送っていた。鉱石を精錬し、各種装備を作る。またアベルたちの装備が傷めば修理してやる。彼にとって理想の生活であった。


 しかしアベルたちは平穏でない日々を送っていた。ディオン教国との絶え間ない戦いが続いているのだ。今ライトの前には、暗い顔のダニエルと苦虫を噛み潰したような顔のアベルがいた。


「アベル様、兵が足りませんぜ。国王はいったいなにを考えていやがるんだ。援軍一つよこしやしねえ」


「ダニエル、口をつつしめ。国を守るという大役があるからこそ、わが父は広大な領地を賜っているのだ。国境の防衛はわれらの義務である」


 アベルの父、エルネスト・ド・モンフォール辺境伯。伯爵は上から三番目の爵位だが、辺境伯はそれとは別物だ。国境付近で他国の侵略を食い止める役目を持つために、強大な力を持つ。エルネストは発言力において公爵に匹敵し、軍事力においては国王に次ぐ力を持っていた。


 しかしその力ゆえに警戒もされる。

 アベルが魔剣を使うようになってから、モンフォール騎士団は連戦連勝だった。まさに一騎当千、彼を止めれれるものは敵軍にいなかったのだ。


 だが良い点ばかりではない。アベルの活躍が国王の警戒心を刺激したのだ。古来より、強大な臣下に討ち果たされた王は枚挙に暇がない。結果、モンフォール領への援軍は送られなくなり、糧食の補給もなくなった。


 アベルが無敵だとしても、配下の兵たちはそうではない。敵と当たる兵数が減ったため、兵の死傷者が少しづつ増えていた。もしもアベル一人で敵軍と戦えるとしても、彼一人ですべての拠点を守ることなど出来はしないのだ。


「だって、俺らがやられたらランツ王国だって危ないんですぜ? 俺らを苦しめて喜んでる場合じゃないでしょうが」

「それでも国を守るのが騎士のつとめだ」


「敵軍ってどんなカンジなの?」


 それまで黙って話を聞いていたライトが口を開いた。

 ひとつ思いついたことがあるのだ。


「ディオン教国軍は兵数が多い。ただし装備はお粗末で、個々の実力もたいしたことはない。一対一ならわが騎士団が圧勝するだろう」

「アベルが言うくらいなんだから、相当ヒドイ装備なんだろうね……」


 ライトからすれば「わが騎士団」とやらの装備もゴミクズ同然だ。

【IL】でいえば、初級ランクの武具である。正直に言えば、自分のコレクションをプレゼントして、装備を一新させたいと思うような惨状だった。


「そんなに弱い敵ならさ、防具を良いヤツにすれば被害が減るんじゃない? フルプレートアーマーなんかどう?」


 ライトの提案に騎士二人は苦笑した。


「あのな、魔法使いさんよ。おまえさんは種族が違うからわからんかもしれんが、フルプレートなんてのは、めちゃくちゃ高いんだよ。一般兵の一年分の俸給より高い。指揮官だけならともかく、みんなに装備させられるような代物じゃねえ」


「付け加えると、作るのにも相当時間がかかる。金があったとしてもすぐに揃えるのは無理だ。おまけに重さの問題もあるしな」


 ダニエルたちに否定されたというのに、ライトは顔をほころばせた。本当は欲しいのに鎧が手に入らないというなら、ライトの目論見通りに事が運ぶだろう。


「なら、ボクが作ってあげるよ。とりあえず甲冑と長槍を3千セットでどう?」

「それを買えるほどの金がないのだ。魔剣で蓄えがなくなってしまった」


 ライトはにんまりと笑った。これも彼の計算通りだったのだ。


「知ってるよ。だからかわりに、鉱山を一つちょうだいな。今なら、な、なんと、三千人分の加速ブーツもついてきます! こんなチャンスめったにないですよ!」


「鉱山一つか。たしかに妥当なところかもしれん。……ライト、この近くにあるオレの鉱山でもかまわないのか?」


「ぜんぜんオッケーだよ」

「いや正直に言うが、取れるのは鉄がほとんどだぞ。しかも岩に含まれる量が少なすぎて、採算が取れないようなクズ山だ」


「はは、アベルは正直者だねえ。でもボクは採掘がしたいだけなんだ。鉱山の質とかはどうでもいいんだよ」

「そう、なのか? なら頼んでもいいか?」


「じゃあ装備は先に作ってあげるから、鉱山の件は忘れないでね。全部で九千個だから……。うん、3日くらいはかかっちゃうかな。待っててねー」



 * * * * *



「坊ちゃま、あれは冗談、ですよね?」

「それはそうだろう。……いや30日と言ったんじゃないか? それでもありえないような早さだが」


 鼻歌交じりで立ち去るライトの背中を見ながら、アベルたちはしばらくその場で呆然としていた。あれだけの数の装備を作るとなったら、王国中の鍛冶屋を総動員しても、何日かかるかわからないのだ。



 * * * * *



 しかし驚くのはまだ早かったのだ。ハイテンションになったライトは、たった2日で装備を仕上げてきたのである。


 突然城内に積み上げられた装備に、エルネストをはじめ皆が胡散臭そうにした。しかし実際に手にとると、彼らはすぐにその素晴らしさの虜になった。特に軽量化の効果をつけた鎧は、兵士たちに大好評だった。


 ライトは気づいていなかったが、どこからか連れてこられた彼を疑いの眼差しで見るものは多かったのだ。けれどこれ以後は、不可能を可能にする魔法鍛冶師として高く評価されることになったのである。



 * * * * *



「ふふふ~ん、ふんふんふ~ん」


 その日、ライトは上機嫌だった。

 もらった鉱山で予想外に珍しい鉱石が出たためだ。アベルがクズ山と言った鉱山からは、八極石やセイクリッドムーンなど各種のレア鉱石が取れたのである。


 もっともそれは、神級採掘スキルを持つライトだから可能だっただけだ。普通の人間がいくら掘っても粗悪な鉄鉱石が出るだけだっただろう。


 【IL】ではスキルのランクによって、同じ採掘場からでも違う鉱石が出る。ライトにはこの世界が【IL】と同じなのかよくわからなかったのだが、同じルールは適用されているようだった。


 ライトが街道を歩いていると、前から馬がやってきた。旅人ではありえないような猛スピードを出している。距離が遠くてよく聞こえないが、馬に乗っている人もなにやら叫んでいるようだった。


「元気いっぱいだねえ」


 しかしライトは、のんきにそう言っただけだった。このままでは馬にひかれかねないというのに、街道から離れようともしない。彼の表情が変わったのは、距離が近づいて声が聞こえた時だった。


「たすけて~!」


 乗り手の悲鳴で、ようやくライトにも馬が暴走しているとわかったのだった。

 その乗り手には見覚えがあった。アベルの妹のジネットだ。まだ13歳の可愛らしい少女で、ライトも何度か話したことがある。


「あぶないから、にげて~!」


 ジネットの叫びが、助けを願うものからライトを危惧するものに変わっていた。 ライトが考えている間も距離は縮まっていたのだ。馬はすでに目の前にいた。


「【クロノスの瞳】」


 ライトは動揺する素振りさえみせずに、アイテムの名前をつぶやいた。虚空から丸い宝石があらわれる。ライトはその宝石を握りつぶした。そして──

 世界から色彩が失われた。


 走っていた馬は止まった。乗り手ともどもピクリとも動かない。

 それどころか、空を流れる雲もその場にとどまり、風になびいていた草木も微動だにしない。このモノトーンの世界で動くものはライトだけだったのだ。

 ライトは馬に近づいて、乗り手を引きずりおろした。


「【鎮静剤】、【下級治療薬】」


 そして取り出した二つの薬を馬にふりかける。


「これでよし」


 ライトが満足そうにうなずいた時、世界に彩りが戻った。

 馬は走りだし、ジネットは止まる前の運動エネルギーそのままに、ライトに向かって突っ込んでいった。しかしライトは、ぶつかってきたジネットを軽々と抱きとめた。


「にげ……。え……!? あ、あれ?」

「大丈夫?」


 混乱するジネットに、ライトは優しく話しかけた。


「えっ、な、なにが起こったの」

「課金アイテムを使っただけだよ」


「カキン? あ、あなた、お兄ちゃんが連れてきた魔法使いの人! そうか、ライトが魔法で助けてくれたのね?」


「魔法? まあ、ある意味魔法なのかな?」ライトは少し先にいる馬を見ながら続けた。「……それより、まだ落ち着かない? そろそろボクから離れて、馬を連れに行ったほうがいいと思うけど」


 そう言われてジネットは顔を真っ赤にした。それまで二人は、恋人のように抱き合っていたのだ。ジネットはライトを突き飛ばすようにして離れた。


「~!」


 ジネットはうつむいて、声にならないうめきをあげていた。ライトは頭をかいてから、馬にむかって歩き始めた。ジネットにどう対応すればいいのか、よくわからなかったのだ。


 鎮静剤の効果か、馬はのんびりと道端の草を食べていた……。



 * * * * *



 さらに半年がたった。

 ライトはあいかわらず平穏な毎日を過ごしていた。鉱石を精錬し、各種アイテムを作る。たまに鉱山に出掛けて採掘にいそしむ。兵士の装備を作ってやってから、目に見えて待遇が改善されたこともあり、ごく快適に過ごしていた。


 アベルの家族たちとの付き合いで、時間を潰されるのは多少不満だったが、今のライトはそれほどレベル上げを急いではいなかった。なぜなら高ランクの装備を使いこなせるような人間が、どこにもいなかったからだ。いくら作成レベルをあげてもあまり意味が無い。


「ねえジネット、見てて面白い?」


 ライトは、アベルに頼まれた兵士用の甲冑を作りながら、隣りにいる少女に声をかけた。暴走する馬から助けてから、ジネットは毎日のようにライトの工房を訪れるようになっていた。


「なあに、私がいると邪魔?」

「いやぜんぜん。ボクの知り合いが、これずっと見てると気が狂いそうになるって言ってたから。ちょっと気になっただけ」


 作成系スキルは、あまりに単調な作業を強いられるので、優遇されているわりには覚える者が少なかった。ライトは、かつてのギルドメンバーの様子を思い出す。50時間ぶっ続けで石叩いてたって言ったら、みんな引いてたな。


「……ライト、その知り合いって女の子?」

「いや男だけど。それがどうかした?」

「ライトのバカ」


 ジネットは頬を膨らませそっぽを向いた。ライト以外のみんなが気づいていた事だが、ジネットは鍛冶仕事や錬金術に興味があって工房を訪れているわけではなかった。


 また最初のころは護衛がついていたのに、最近ではジネット一人でライトに会いに来るようになっていた。つまりは、親であるモンフォール辺境伯やアベルの公認というわけだ。しかしそのことにもライトは気づいていなかった。


「──今度おお兄ちゃんがお嫁さんをもらうの。知ってた?」

「そうなの? それってマズイのかな。……魔剣のせいかもしれない」


「マズくなんかないわ。みんな喜んでいるもの。もしもライトの魔法のおかげなら感謝したいくらい」


 アニマブレイズを手に入れてから、アベルはすこし変わった。もう21歳になるというのに女っけのなかった彼が、積極的に女性に近づくようになったのだ。ジネットの話では、その結婚相手はアベルが昔から気にしていた女性だったらしい。


「……う~ん。前から好きだったなら、おかしくなったわけじゃないのかなあ?」


 ライトは少し考えてから首を振った。そして鍛冶用のハンマーを放り投げて、テーブルに向かう。テーブルの上には、お菓子が並べられていた。ジネットのおみやげだ。彼女は工房に来るたびにお菓子を持ってきてくれているのだ。


「【スットゥングの蜜酒】【幸運の首飾り】【生命の指輪】【美の髪飾り】」

「うわぁ~!」


 ライトが出したものを見てジネットが歓声をあげた。蜜酒は休憩のときによくライトが出す飲み物だが、ほかの3つはジネットも初めて見る華麗なアクセサリーだったのだ。


「気に入った? ジネットのために作ったんだよ。セット効果があるから、3つはいっしょに装備してね」


「えっ、私にくれるの!? ……ど、どうして?」

「このお菓子、ジネットの手作りだって聞いたから」


 ジネットは少しガッカリした顔になった。彼女が求めていた答えとは違ったのだろう。けれどすぐに気を取り直し、アクセサリーに手を伸ばした。そしてライトにちらちらと視線を向けながら、指輪を右手の小指にはめる。


「……ど、どうかしら?」

「うん、よく似合っているよ」


 ライトは笑顔で言った。彼は自分の仕事ぶりに満足したのだ。レベルが低すぎるジネット用の装備作成は、なかなかに困難だったためだ。だがジネットは、ライトの笑顔を違う意味にとったようだった。頬を染めて、ウットリと指輪を見つめる。


「だ、大事にするから」


 ジネットが勘違いしたのには理由がある。ランツ王国では、右手の小指にはめる指輪は恋人からの贈り物、という慣習があるのだ。むろん異界から来たライトにわかるはずもなかったのだが。


 ジネットはうつむいて、深呼吸をした。

 そして顔を真赤にしながらライトを見つめた。


「ら、ライト! 私、あなたの──」


 ドンドン。扉を叩く音がジネットの言葉をさえぎった。


「誰だろ? ジネット以外が来るなんて珍しいな」


 ライトはそう言いながら扉を開けた。

 外にはアベルが立っていた。


「お兄ちゃんのバカ!」


 ジネットはアベルに罵声を浴びせてから、二階に駆け上がった。

 いきなり罵られたアベルは、扉の前で困惑の表情を浮かべていた。


「……すまん。もしかしていいところだったか?」

「なにが?」


「オレが言えることじゃないかもしれんが、おまえ本当に大人なのか」

「そのはずだけど」


 アベルはため息を一つついてから、工房の椅子に腰掛けた。


「装備の催促しにきたの? だったら、もうできてるよ」


 最初に約束した重装歩兵三千人分の武具だけでなく、ライトはその他数多くの装備をアベルの騎士団に作ってやっていた。鉱山から多数のレア鉱石が手に入ったお礼としてだ。


「もうできたのか。あいかわらず凄まじい早さだ。ライトには本当に感謝しているぞ。おまえのおかげで戦死する者が激減したからな」


「気にしないでよ。ちゃんと報酬はもらってるんだから」


 軽く手を振ったあと、ライトは真面目な表情になった。


「それより、アベルは最近おかしくなったりしてない?」

「どうした急に。オレは自分がおかしいとは感じないが」


「ジネットに聞いたんだ。今まで女に興味がなかったのに、お嫁さんをもらうことにしたんでしょ。そこらじゅうの女の子に襲いかかったりしてるんじゃないの?」


 魔剣の効果があらわれているなら、そうなっていても不思議ではない。約束したてまえ、ライトはアベルの状態に関心があったのだ。だがあらぬ疑いをかけられたアベルは、顔を紅潮させた。


「ば、バカを言うな! 第一にオレは女に興味がなかったわけじゃない。第二に騎士たる者がそこらの娘を襲うなどするはずがなかろうっ」


「ふうん。じゃ、エッチしてるのはその奥さん候補だけ?」

「なっ、馬鹿者! メラニーはそんなふしだらな女ではない。オレたちは清いままだっ」


 ライトは愕然とした。アベルの父は4人もの妻妾を抱えている男だ。それなのにその息子は21になるまで女に縁がなかったとは。今回のことでまわりが喜ぶのもよく分かるというものだ。


「……それにしても、アベルはあんまり変わらないねえ」

「呪いとやらは本当にオレにかかっているのか? まるで実感がないのだが」


「ちょっと待って」ライトは片目をつぶりアベルを鑑定する。「うん、やっぱりバッチリ呪いがかかってるよ」


「つまり、オレの精神力が呪いを上回っているということか」


「いやあ、もともとあんまり欲望がなかったんじゃないかな。呪いで強化されてようやく人並みになったのかもね」


「……となると、メラニーと上手くいったのは魔剣のおかげか? なにやら複雑な気分だな」


 アベルは腕を組んで唸った。その姿を、ライトは注意深く観察した。その結果、まだアベルはおかしくなってないな、と判断をくだした。


「そういえば、なんか用があったんじゃないの?」

「陛下からおまえを王都に送れという命令がきた。すまんが行ってきてくれるか」


「そんなこと? べつにいいよ」

「そうか、助かる」


 頭を下げるアベルを、ライトは不思議そうに見つめた。

 ライトには理解できていなかったが、今回の命令は国王からの牽制だ。すでにモンフォール騎士団の勇名は広く知れ渡っていたのだ。むろん、その装備を作った魔法鍛冶ライトの名も。


 そして王都には、モンフォール家と敵対関係にある貴族も多い。ライトが嫌がらせを受ける可能性は高いのだった。


「そうだ! もしかしたら時間かかっちゃうかもしれないから、今渡しておくね。【ミスリルシールド】【ミスリルアーマー】」


 そう言ってライトが取り出したのは、銀色に光る盾と鎧だった。そのあまりの美しさにアベルが息を呑む。


「これは……?」

「アベルも強くなってきたらから、ちょっと良い装備をあげようと思って」


 魔剣を手に入れてからの戦いで、アベルはレベル37にまで成長していたのだ。ミスリル装備などはたかだか中級クラスにすぎないが、それでもいつも作っている鋼の装備よりはましだ。ライトも久しぶりに楽しんで作ることができたのだった。


「……残念だが、金がない」


 アベルは、いかにも無念といった様子でそう言った。もしもあれば、有り金すべてをはたいてでも手に入れただろう。だが今のアベルには、自由になる資金がまったく無かったのだ。


「そうなの? じゃあアベルがこの装備にふさわしいと思うモノならなんでもいいよ。お金がかかってなくても思い入れがあるものとかあるでしょ」


 ライトは魔剣と引き換えに、アベルから大金をせしめた。しかしライトは強欲ではなかった。実のところ、大金といってもあくまでこの国の基準であって、【IL】の世界でなら、話にならないほど安値での販売だったのだ。


 アベルは銀の防具を見てしばらく考えこんだ。

 そして階段の上をチラリと見た。


「……ライトはジネットの事をどう思う? 女の子としてだぞ」

「ジネット? 可愛いと思うよ。見た目も性格も」


「……!」


 二階から押し殺した、かすかな声が聞こえた。


「ジネットの事は好きか。それとも嫌いか」

「そりゃ好きだよ」


「……!!」


 二階からふたたび悲鳴のような声が聞こえた。

 ライトも二階に目を向けた。すると階段の上にジネットの栗色の髪が見えた。


(どうして廊下に寝転んでるんだろ? どうせ寝るなら寝室を使えば良いのに)


「ならば、おまえが戻るまでに準備をしておく。かまわないか?」

「え、戻るまでに? うん、それでもいいよ」


 この時ライトは、自分が勘違いしていることに気づいていなかった。

 彼は単純に、自分が王都から戻ったあとで、ミスリル装備の対価が支払われると思っただけだったのだ。


 ──だからアベルが嬉しげに微笑んだ理由もわからなかったし、もし見たとしても、ジネットが顔を真赤にして震えている理由もわからなかっただろう……。

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