表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

007 再盟約の火雷天神 

「ハギさん。魔法ってなんですかねえ」


 これは<フィジャイグ地方>からの帰路の船上での会話である。ヨサクが船を降りたあと、少しエンカウントが弱まった時のことである。


 しばしの別れを決意したディルウィードに、みんな一声かけようと思ったのだろう。ハギはヤクモを連れてディルウィードの横に座った。ハトジュウは周辺を警戒しているのでハギ自体完全に気を休めているわけではないが、「よっこいしょ」と腰を下ろすさまは野球でも観戦しながらビールでも飲もうかといった雰囲気に見える。


「ディルくんはどう思っているんだい?」

「限られたMPの中で、最使用時間を考えながら、効果的な循環を生むことを術者に要求するものっていうドM的発想がありますよね」

「ハッハッハ、ぼくらは魔法に使役されているって考え方だね。突き詰めた人たちほどその考え方になっていくよね。それだけ純粋にシステムと向き合っているってことかな」

 ハギはヤクモを撫でながら言った。


「システムって面から言うとですね。おれ、命令文の方が魔法の実体だと思ってたんです」

「命令文?」

「プログラムを動かすためのコマンドですね。例えばおれが魔法を選択します。そうすると命令文が実行されますよね。<こんなエフェクトを出しなさい><カウントを開始しなさい>、他にも確率計算や点数計算、付与効果の成否、キャンセルの有無、とか、そんなのプロセス自体が魔法であって、モーションとかエフェクト自体にはそれほど意味はないと思ってたんですよ」


「<大災害>からこっち、確かに不思議な感覚だよね。魔法を使おうとしたら口をついて呪文が出てくる。ぼくもね、呪文に意味なんてない、エフェクトの一種じゃないかと思ってわざと短縮して唱えてみたんだ。結果、意味はあった。どうなったと思う? ディルくん」

「成功判定に影響が出た……ですか?」

「呪文は機能したんだよね。でもね、MP使用量が増えた」

「やっぱりマイナスの影響が出たんですね」


「んー、<兎歩>っていう呪文があってね。これバッドステータスを除去できるんだけど。最初の三歩、三歩、三歩で機能し始めるんだ。これを改造してみたくなっちゃってね」

「ハギさん、色々やってますね」

「千歩歩いちゃったよ。ステップを変えながらね」

「ど、どうなったんですか」

「ボクとヤクモ(この子)の勘違いじゃなければねえ。ヤクモが<飛び梅の術>を使った気がする」

「ヤクモ、ちゃんと飛んだよー」

 ヤクモがふくれっつらでハギを見上げる。本当に親子のようだ。


 ディルウィードが確認する。

「違う魔法が発動した、ということですか」

「可能性の段階だよ、ディルくん。魔法もすべての動作に意味があって、すべての呪文に意味があって、まだまだ可塑性を秘めている。そういうことじゃないかなあ」


「新たな呪文の可能性……ですかね」

「うん。さて、そろそろ出番かな。よっこいしょ。行こうヤクモ。あ、そうそう。ドリちゃんあんまり泣かすなよ」

「ハイ!」



■◇■



 「で、お前ぇたちは一体誰なんですかねえ」


 【工房ハナノナ】は<P-エリュシオン>にたどり着いた。

 たどり着いて目を丸くした。

 買い上げたゾーンの周囲に丸太が積み重なって、バリケードになっている。石もたくさん落ちていて、よく見ると建物にもいくつか破損が見られる。

 中に入ってみると、甲冑男がいる、魔女っ子がいる、黒ずくめの男がいる、ローブ姿の気の弱そうな男がいる。その四人に対して、牛に乗ったちびっ子が何か指示を与えている。



「口の利き方に気をつけるのじゃ。あやかしウサギよ」

 牛に乗った童はじろりと睨んで言った。


「おいおいおい、ちびっ子! アンタも偉そうに何なんだよ。ここはオレ様たちの住処なんだよ! オマエらが勝手に入ってきていいところじゃないの! ほら、ゲラウ」

 バジルが吠えるのを、あざみが横目で睨む。

「アンタは居候だから、この人たちとあんま立場変わんないけどね」



「あやかしオオカミ。こなたへ寄れ。苦しゅうない」

「ああん? オレ様を呼びつけるたあいい度胸だぜ、小僧」


 牛にまたがる稚児は手を伸ばす。そしてバジルが吹き飛ばされるのはほぼ同時だった。

「げ、げふぉ! な、喉が! がー、ごほっ! ビリっときたあ」

 喉を押さえて咳き込むバジル。


「隊長! この子ども! <冒険者>でも<大地人>でもないですよ!」

 ハギの叫びに、あざみが身構える。

 すると、ヤクモがとたとたとたと近づき、袖を大きく広げて稚児をかばう。


「かむろ! その方はわかっておるな。わしが何者であるか。あやかしウサギ、見習うが佳い。この献身的な態度。学ぶが佳い。さあ、惜しみなく学べ」


 桜童子はぽりぽりと頭を掻こうとして、いつものように手が届かなかったので、あきらめてため息だけついた。



「逆でしょう。従者じゃないとここには入れないんだから。認めてるんでしょう? 認めちゃったんなら、おいらの仲間たちに手は出さないで欲しいな。<火雷天神>」




「火雷天神ー!!!???」


 ここにいる全員が声を合わせた。先にいた四人の<冒険者>も含めて全員だ。ただ、桜童子と<火雷天神>だけがやれやれと言わんばかりに平然としていた。



 <火雷天神>といえば、ヤマト最強の怨霊にして、難攻不落の<火雷天神宮>のラストボスである。彼の前に何人の<冒険者>が膝を屈したか。彼の姿を見ずに散っていったものがどれほどか。



「オレ様はだまされねえぞー! そんなちんちくりんのガキンチョが<火雷天神>なわきゃねえだろうがよぉおお、ってぐお、ごふぉ!」

 性懲りもなく叫んでまた吹き飛ばされるバジル。



「このナリもなかなか佳いものじゃが、さすがにちんちくりんと呼ばれればわしとてショックじゃな。これ以上愚弄すれば消し炭に変えてくれるぞ。さあ、あやかしウサギ。わしの力を貸して欲しくば、その身を食わせるが佳い」


「押し売り強盗ですか、あなたは。食べさせるわけないじゃないですか」

「出し惜しむな。相当な魔力を手に入れたと聞くぞ」

「やはり目的はそれでしたか。おいらたちは先にすすまねばならないですから、また別の日にしてもらってもいいですか?」


 桜童子が珍しく敬語でしゃべっている。だから、【工房ハナノナ】は黙って推移を見守っている。警戒と緊張を解くわけには行かない。

 が、よくよく聞けば内容としては慇懃無礼だ。おそらくは対等な関係なのではあるが、桜童子が敬意を払っているという状態なのだろう。



 <火雷天神>と桜童子の関係を語るには、ゲームバランスの関係上すぐに改変されることになった<会話による盟約システム>について語らなければならないだろう。


 <火雷天神宮>は二十四人編成(フルレイド)制限のかかったダンジョンである。<途中で死亡した際全滅するまで再入場できない>、<表と裏のルートで全く攻略法が異なる>などの特徴が難易度を高めている。

 ほぼ全滅レベルの難易度とまで言われる理由が<火雷天神>の強さにある。およそダブルレイドクラスなのだ。


 二十四人の入場制限かかっているダンジョンに、四十八人がかりでしか倒せないボスがいるというのはインチキのようだ。一時期「チート推奨ダンジョン」などと揶揄されたが、チートしたところで勝てるようなやわなボスではない。

 本当の精鋭たち二十四人が、作戦を練ってきちんと連携して倍の力を出して初めて倒せるという秀逸なダンジョンである。だからここを完全攻略できたチームは極めて少ない。


 しかしこのダンジョンには隠し攻略法が用意されていた。それこそが<会話による盟約システム>である。発動条件は、自分以外の全滅。ラストボス<火雷天神>の前にたったひとりで対峙することで会話が始まる。孤独な<冒険者>の勇気と度胸に興味を示すのである。そして知性を試す二十四の会話が始まる。中には気分次第で答えの変わる気まぐれな問いも混じっているので、これまた極めて成功者の少ない攻略法であった。

 この攻略法を公式掲示板に書き込んだものがいたため、このシステムは排除されることになったが、それまで秘中の秘として存在した攻略法であった。


 桜童子はこのとき<火雷天神>と盟約を交わしたのである。召喚術師でなければアイテムを授受するのであるが、桜童子は類を見ない<召喚術師>での成功者である。アイテムではなく<火雷天神>が従者となったのである。

 <盟約>という関係であるため契約枠は他の従者と違う別枠だった。しかし召喚術師の十二の契約数を超えられるわけではなく、契約スロットは盟約従者の数だけ灰色の使用不可欄となっていた。

 <大災害>後は再契約が必要となったらしく、呼び出そうとしても「必要な対価が足りません」という表示が出て召喚できない状態になっていた。その代わり、契約スロット数が十二に戻っていた。これが桜童子の召喚枠に空きスロットが存在する理由である。


 ともかく桜童子にとって<火雷天神>は元従者であり、コストの支払いによっては再契約も可能ということである。<火雷天神>の希望対価は魔力である。したがって<蒼球>を渡せば、以前のように使役できるということなのか、と桜童子は考えた。

 しかし、<火雷天神>は別の要求を持っていた。


「わしは<ミニオン>扱いになるのが嫌じゃ。だから契約はまっぴらごめんだ。だが、そのあふれ出んばかりの魔力を必要な時に必要なだけくれると言うならば、盟約を結んでやらんこともない。この姿のままでおったほうが都合が佳いのじゃ。元の姿に変わるのも容易なことなのじゃ。従者となればそんな希望は一切持てない。どうじゃあやかしウサギ、そこもとも<ミニオン>ランクごときのわしのチカラで満足なわけがあるまい?」


 <ミニオン>クラスであっても、桜童子は<兎耳のエレメンタラー>とあだ名されることがあるくらい強力な力がある。


「魔力の源であるこの<蒼球>は大切なものですから、お譲りするわけにはいきません。ですが必要なだけというならば問題ないですねー。しかし、元の姿っていったら<ダブルレイド>クラスですよ? あまり過ぎた力はおいらの間尺に合わないなあ」


「たわけ。そこもとの間尺に合うかどうか考えるならば、そこの連中の手を借りることさえ叶わぬわ。あやかしウサギの分際で、烏滸がましい。わしが佳いと言っているから佳いのだ」


 どうやら(従者契約は結ばぬ。だが、盟約は保ったまま時折<蒼球>の魔力を味わわせてくれ。そうすれば、<ダブルレイド>級の力を貸すぞ。遠慮なく使え)ということか。なんとも理解するのに努力を要する会話である。


「そんなもんですかねえ。そもそもそこの四人は一体誰なんですか」

「そやつらは<アキヅキ>の冒険者じゃ。愚かしいことに<ヒコ>の天狗たちに追われてここまで来おったのじゃ。<ヒコ>の天狗といえば、<アキヅキ>と繋がりが深いものたちじゃというのに。このわしが調停に出てやるから何か善行を積めと言うたら、ここの修繕を始めおったわ。素直で佳いことよ」

「てっきり、MPを吸い尽くされたくなくば働けと脅したのかと」

「たわけ。まあ、確かに言うには言うたが、それは働かせるための方便じゃ」


「その姿なら無制限にMPドレインが起きたりはしないのですか?」

「元の姿と違って、この姿を維持するのはたやすいでな」


 <フィジャイグ地方>で戦った敵は、MPドレインを起こす巨大な龍を召喚したが、その敵の様子について桜童子は「おいらによく似ている」と評していた。それは<火雷天神>の能力のひとつにMPドレインがあることも含めて言ったのであろう。

 しかし、あの現象の<ダブルレイド>版だと考えるとそうそう元の姿に戻られては困ると桜童子は思った。



 それにしても牛に乗った子どもとウサギのぬいぐるみが喋っている光景は実にシュールだった。そして、言葉の割に友好的であることも伺い知れた。<会話による盟約>が成立したというくらいあって、<火雷天神>にとって桜童子は気心の知れた良い話相手なのかもしれない。


「おいらたちは、<パンナイル>に向けて急いでいたんですが、せっかくあなたがいるならひとつお尋ねしたいのですが」

「佳い、何なりと申せ」

「<ユーエッセイ>の<エイシェントクィンの古神宮>はご存知ですか」

「たわけ。わしをバカにしておるのか」

「その<古神宮>を建てた<ドワーフ>の技術を持つ人物の力を借りたいのです」

「ふむ」

「この<蒼球>を保管したいんですよ。力の流出を封じ……聞いてます?」



 しばらく牛の上の子どもは顎をなでていたが、くるりと牛の向きを変えて外に出ていこうとする。


「そこの<ノーラフィル(野良)>四人! 出立するぞ。桜童子! そこもとも用意せい! 天狗の里のすぐわきに<ドワーフ>村がある。今より向かうぞ」


 <ノーラフィル>四人は「ハイ」と返事をして、まるで<火雷天神>の従者になったかのように付き従った。桜童子は頭を掻いた。


「参ったなあ。おいら、じゃあこっちの用を済ませてから<パンナイル>に向かう。だからみんなだけでそっちに向かってもらえないか。レン、事は火急らしい。あとは頼んだぜ」

「にゃあちゃんも気ぃつけてなぁ」

「おう、ディルと連携とってやってくれ」


 桜童子は自分を除くメンバーに先に進むことを指示する。ここまでで一時間近く経っている。何が起こっているのかすらまだ聞いていないが、ディルウィードがうまく立ち回っているのか、それとも戦闘中なのかはわからないが、とにかく連絡がない状態なので一刻も早く駆けつけたいところである。




「なんじゃ小娘。道を遮るな」

 ふと見るとイタドリが手を広げて白牛の行く手を遮っている。

「ミッチー、わたしも連れてってください。連れってってください! 連れてってー!」

「なんじゃみっちーとは」

「道真のみっちー! みちざねのミッチー!」

「ぶぉ、わしの神威が下がるような呼び方をするでない」

「からちんじゃ言いにくいから、みっちーがいいもん。ミッチーがいいもん!」

「く、もう佳いわ。好きにせい。なんじゃ」


 イタドリは広げていた手を下ろしてションボリとした。

「このままじゃ、ディルっちに会えないもん。助けに行けないもん」


「なんじゃ、恋バナか」

「みっちー、恋バナ分かるの? 恋バナ分かるの?」

「うちのダンジョンの願掛けは縁結びの効果もあるともっぱらの噂じゃぞ」


 一瞬ぱっと表情が明るくなったイタドリだが、花が萎れるようにしゅんと暗い表情になる。バジルが口出ししようとしたのを、サクラリアが止める。そして首を振る。


「わたし、武器壊しちゃって、武器壊れちゃって。武器無くしちゃって。このまま助けに行っても、邪魔にしかならないし。ディルっち、きっとディルっち、強くなろうとがんばってるから、わたしもがんばらなきゃダメなんだよ。がんばらなきゃダメなんだよ」

「佳し。がんばれ」


「え、それだけ? え、それだけ? え、え、それだけ?」

「そこもとらの言葉に<天は自らを助けるものを助く>という言葉があるのを聞き及んでおるぞ。励め」

「励むよ、頑張るよ。だから、連れてってください! 連れてってください!」


「そこもと。本気で自らを助けようと思うのならば、連れて行ってもらうのではなく、自らついていけばいいだけの話じゃ。心根から改めるが佳い」

「ぐう。は、はいー」

「佳い。そこもとはまだ若い。これからじゃ。はっはっは。では参ろう。そこもともついて参れ」


 

 結局桜童子とイタドリは<火雷天神>のペースに乗せられたまま<P-エリュシオン>をあとにした。



「完全に主導権を握られちまってて、あれじゃあどっちが従者かわかりゃしねえ。でもまあ、なんだ。ドリの介は大丈夫なのかねえ。思い悩んでて見てらんねえなあ」

「大丈夫よ、バジルさん。女の子は強い生き物なんだから」

 サクラリアはバジルの背を叩いていった。

「あいた! さ、さすが、経験者は語るねえ。さあておっぱい姉ちゃん! オレ様たちも出発しようぜ」


 シモクレンはバジルに向けて微笑んだ。

「おおきにな、バジルはん。最年長やから気張ってはるんやろ? やけど言うたやん。その名で呼んだときは覚えときなはれって」

「ひ、ひぃいい! とりあえずしゅっぱああああああつ!」

 バジルが慌てて駆け出す。

 ヤクモがハギを見上げて言った。

「バジル、かっこわるい」

「おやー、ヤクモ。なんとなく以前に戻ってますねえ」

「ヤクモも行くー!」

「あの石の影響にゃかねー。リーダーいないからノンストップで行くにゃよー! ヤクモちゃん、山丹に乗るにゃー!」


 心配性のディルウィードがいたなら、きっと片付けのことを口に出していただろうが、迷いなく【工房ハナノナ】の全員は<P-エリュシオン>を出発した。



■◇■


 ディルウィードはそのころ、一時間の連戦に喘いでいた。


 <機工師の卵たちバディング・マシーナリーズ・パーティ>に加え、<パンナイル見廻組>も<不死者>掃討作戦に投入されたが、大部分は街道沿いに配置された。もうかなり街道には商人たちの姿も増えてきている。


 商売にはイメージも大事である。<不死者>が街近くでうろうろしているところで新鮮な果物を売っていたとして、それが美味しそうに見えるとは思えない。だからこそ、街道側から戦闘の様子が見えないような配慮が真っ先にすすめられた。


 

 <見廻組>はまず、盾を街道沿いに並べた。目の高さに盾を掲げることで街道の外に対して目隠しをした。その近辺に寄ってきたものは<武士><暗殺者>など、白兵攻撃に優れたものが街道側から非常事態を見せることなく処理する。

 

 そのため中央での殲滅作戦の中心は<機工師の卵たち>が担った。


 ディルウィードのような<魔法砲台>を擁したチームというのは、どうしても彼中心にして戦線を維持していこうという思考に陥りがちである。ディルウィードさえ守り抜けば、敵を一瞬に殲滅出来るからだ。


 この発想は最も一般的で、<妖術師>がいかに魔法をセーブしいかに効果的に使うかというのが、上級者チームの命題のひとつにもなっているくいらいだ。だがこの方法は、今回の<不死者たちの穀倉地帯>攻略には向かないのだ。


 まず一発のMPの消費が激しすぎる。ディルウィードは中級者であり、幻想級のようなMP回復アイテムを持っていない。

 そして、ヘイトが高まりすぎている。三十二体のほとんどが<|機工師の卵たち>を襲っているのはいいが、このクエストの攻略条件は「<ルークィンジェ・ドロップス>を全て掘り当てること」である。ディルウィードはそんな暇を見つける余裕もなく、まだひとつの石も掘り出せていない。



「ごめんよ、ディル兄ちゃん! ぼくがヘイト引き受けてもディル兄ちゃんをフリーにしてあげられない!」

 スオウが叫ぶ。ディルウィードのヘイトを下げることができても、ヘイトの総量を下げることができない。だから<不死者>たちは次々やってくる。


「すまねえっす! オレも寄ってくるのを切り払うので手一杯っすよ」

 ツルバラが苦しい息遣いの中で謝る。

「美しい剣技をもってしても、全員切り払うのは苦しいですね」

 エドワードが切り倒して多少敵の数が減ったように見えるが、しばらく戦っているといつの間にか元の数にもどっている。


「何か移動阻害呪文、誰か持ってないの!?」

 栴那が悲鳴を上げる。しかし、剣さばきは中級レベルながら見事だ。


 ディルウィードはサッカーを思い浮かべた。今の状態は、守備と攻撃を必死に繰り返しながらも膠着状態の続く試合に似ている。司令塔の決定的な状況の打破が必要だ。


 ディルウィードは笑った。

「ないなら、生み出す。【工房ハナノナ】のものづくり魂、見せるっきゃないでしょ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ