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014 世界の秘密と天を焦がす炎

 <アキヅキ>のカーネリアンの計略が見事功を奏し、<ナカス>の追撃は未然に防がれた。


 「マルヴェス卿が<パンナイル>の危機を救った」という偽情報が巷に広がってしまっては、マルヴェスも再挙兵しづらくなってしまったのだ。

 逆に何も知らない<パンナイル>の民の間で、マルヴェスに対する歓迎ムードが高まっていった。しかし、さすがのマルヴェスも厚顔ではいられず、<パンナイル>からの招待は頑なに固辞した。


 <火雷天神>の据えた灸に懲りたのだろう。<パンナイル>侵攻を断念せざるを得ず、<リーフトゥルク家>の領主の首の挿げ替えという野望も潰えてしまった。


 それどころかマルヴェスは「<パンナイル>の地は害あって利なし」と評価した。ここまで来ると羹に懲りて膾を吹く状態だが、ひょっとするとこれは<パンナイル>を狙うと<火雷天神>が攻勢に出るという誤解が生じていたことが原因かもしれない。



 これによりこれまで以上の搾取や新たな侵攻が生まれる心配もなくなった。<パンナイル>は商業都市として今までどおり泳がせておくという<ウェストランデ>の方針は当面変わることはないだろう。


 今回の一件で大きく変化があったのは<アキヅキ>である。<ナカス>にほど近いため<ウェストランデ>の一部として自治をあきらめるか、衰退の一途をたどるかと思われたが、大きく東側に活路を見出した。


 <ビグミニッツ>の黒狸族店主は、店頭に多くの<アキヅキアンティーク>を陳列するようになったそうだ。<アキヅキ>経由で運ばれる<パンナイル>の陶芸品や絵画、刀剣は目玉商品として扱うことが多いという。もうお分かりであるとは思うが、この生産品に関わっているのは【工房ハナノナ】である。


 <パンナイル>の防衛も<アキヅキ>の版図拡大も、<火雷天神>が大きな役目を果たしている。その裏に【工房ハナノナ】の存在があることは、多くのものは知らない。


 彼らの人助けは名を上げることにはならないが、彼ら自身を生かす道になっているというのも面白い事実である。【工房ハナノナ】をよく知る<冒険者>は、「彼らの行動は名を捨てて実を取る行いであり、それが最も彼らにふさわしい」と評するが、これは彼らの一面をよく言い表している言である。



 <神代猫>を倒した後、シモクレン、あざみ、ハギ、サクラリア、ユイ、バジルにイクス、そしてヤクモとハトジュウと山丹は、連れ立ってディルウィードの下宿を訪れた。なんだか大学に受かって一人暮らしを始めた弟を訪ねてきた家族のような雰囲気だ。

 管理する女性に土産を渡すと、立て込んでいてろくに構えず申し訳ないと恐縮していた。さすがに勝手に部屋に入るのも気が引けたので、玄関先に土産を置いて行った。


 これからは<サンライスフィルド>に戻り、<P‐エリュシオン>の大片付けだ。<ノーラフィル>のおかげで、丸太のバリケードまである。


 あざみがぱんっと扉に張り紙をして一同は立ち去った。


 <がんばれ、ディル! 姉ちゃんたちより>

 



■◇■


 親愛なる花純美さんへ


 話したいことがいろいろあるけど、花純美さんもがんばってるらしいから、とりあえずまた手紙を書きます。

 花純美さんドワーフの村で武器作りに料理修行してる、ってシモレンさんのメモに書いてあったよ。じゃあ、帰ったらドワーフ仕込みの新料理が食べられるのかな。楽しみだな。


 みんなさ、まだ離れてそんなに日が経っているわけじゃないのにちゃんとお土産置いてって律儀というか笑えるというか。山丹なんかキウイ置いていっているからね。

 堂々とした字書くのってあざみさんだよね。「姉ちゃんたちより」なんか書いて、ホームシックにでもかからせようって罠かな。かかんないけど。

 でもそのおかげで、実家の姉のことを思い出しちゃったよ。イルカっていうんだけどね。この世界から帰ることができたら花純美さんのことを紹介したいなあ。向こうの世界が無事ならいいんだけど。


 向こうの世界どころかこっちの世界も危なかった話は聞いてる?

 たぶん何が起きたかは工房のみんなから聞いて知っていると思うけど、予感が悪い方に当たっちゃった。でも、おれたち<機工師の卵>は結構活躍したんだ。工房のみんなも頑張ったし、おかげで被害は最小限で収まったみたい。


 なんかさ、なんかわかんないんだけど、さっきまで鉛筆削り作る修行やっていた奴が何言ってんだって思うかもしれなんけど、少しだけこの世界の核心に触れたような気がするんだ。何言ってんだ厨二病って言われるかもしれないけど。

 まあ、必殺技が出せるようになったので高校生といえどもガキっぽくなるのは勘弁して欲しいです。新たな魔法を生み出せるようになったんだ。まさか、口伝ってのが出せるとは思ってなかったんだけど、<魔導を紡ぎ直す者(カクテル・シェーカー)>って名前が付いたよ。


 魔法そのものは口伝扱いじゃなかったから、ひょっとすると開発済みの魔法だけど公開されていなかったとかそういうもんなのかな。よくわかんないや。

 いつも書いてる途中でわけわかんなくなって、ああ、出すのやめようかなって思えてくるんだけど、まあ、これも厨二病と思って許して。

 とにかく、この世界でもっともっとおれ成長してから帰るつもりなんで、花純美さんも一緒に成長しよう。うー、あー、いいや、深夜テンションだから書いちゃおう。花嫁修業と思って修行よろしく!

 あー、照れる。やっぱこれ読んだらソッコー燃やしいて!


ディルウィード:井ノ戸空慈雷



■◇■



 <P‐エリュシオン>に桜童子が帰ってきた。ほかの面々が<サンライスフィルド>に帰りついてから二日後のことだった。


「<火雷天神宮>にやってきた冒険者を追い払うクエストなんて、もう懲り懲りだよ」

 どうやら<火雷天神>のために、エネミー紛いの活動をしてきたらしい。現在桜童子と<火雷天神>は共闘の盟約を結んだ状態である。

 他の従者のように召喚すれば即行動を共にするというわけには行かないらしい。


 特に重要施設を守っているのだから、そう簡単にほいほいついていく訳にもいかないのであろうし、猫の手を借りたい時は桜童子にゃあの手を借りることもあるということだろう。

「にゃあだけに?」

「たんぽぽー、うるさいよー」

「へーい」


 丸太の除去を手伝うものの中に数体の<天狗>の姿も見られた。<ノーラフィル>の四人ももちろんせっせと働いており、懸命に木を加工して薪に変えている。

 暖かいこの地には薪は暖房設備に使われることが少ないが、それでも食事や風呂には必需品である。この薪は<サンライスフィルド>の多くの大地人の家々に配られ、当面は生活に困らないだろう。近在の<木工職人>にも質の良い木材を選んで配っておいた。


 それでもまだ多くの丸太が残っていて処分に困っていた。そこで、処分を検討している間、<P-エリュシオン>わきの大広場に集めて置いておこうとみんなで働いているところである。


「みなさーん! そろそろお昼だよー」

 てるるがみんなに呼びかける。すると多くの<大地人>が<P-エリュシオン>の周りに集まってきた。

「昨日から、これ大人気なんよ」

 シモクレンは桜童子に笑って言った。


「じゃあみんなー。休憩にしてー!」

 シモクレンが言うとへーいという声がして作業していた者たちもみんな広場に集まり始めた。さすがに<天狗>は中には入れず、山に帰って休憩である。ユイとサクラリアは少し前からてるるの横で茶の準備をしていた。


 てるるはというと即席の窯に網を載せてバーベキューを振る舞い始めた。師匠譲りの<女神の手>を持っているが、さすがに焼いた肉をつまんで食べさせるのは、火炎耐性にすぐれたシモクレンのような<冒険者>ではない限りかなりつらい。そこで<ナカス>で手に入れた<極上焼きのトング>を使って振舞っている。

 そこまでしてなぜ振舞うかと言われるとてるるはこう答える。

「それが<食闘士>の業だよー」


 桜童子も笑って言う。

「こりゃあ、ドリィも腕上げて戻ってこなきゃ、立つ瀬ねえなー」

「でも、てるるちゃん、フリーやから今度は<アキヅキ>に行こう言うとったよ」

「げ、そりゃあ、ドリィ帰ってくるまで待ってもらわねえとなあ」



 <P-エリュシオン>前の広場はどんどん人で賑わってきたので、桜童子とシモクレンは裏手の鍛冶小屋の前のベンチに引っ込む。

 ロビーではバジルがサボってソファで居眠りしていた。

「風邪ひかんやろか」

「あとでイクスが叩きおこしに来るだろ」


 鍛冶小屋の前は表と違って静けさが包んでいた。小春日和の日差しがベンチにさしていて二人は並んで腰掛ける。

「おかえりなさい。にゃあちゃん」

「うん、ただいまー。やっぱり家が一番だって呟きたくなっちまうなー」

「年末から動きっぱなしだったもんねえ」

「ここが一番落ち着くよー」

 だらりと桜童子が横になるとぬいぐるみ然としてくる。シモクレンは桜童子のもふもふの耳を指先でつまむ。


「にゃあちゃん。今回の一件はどう見るの?」


「うーん。まず<Plant hwyaden>は一枚岩じゃないだけに、これでおしまいとは思えない。次に<パンナイル>は龍眼さんは今後ちょっと苦しい立場になるかもしれないなあ。それから<アキヅキ>は勢力を拡大したというより延命を図ったというべきだと思っていたが、ひょっとするとまだ知恵があるんじゃないかって気がする」


「<アキヅキ>かあ」

 そこでシモクレンが口をはさんだ。


「東側は有力な勢力がなかったから、ウチらもココと<ユーエッセイ>を行き来できたんやけど、それも変わってくるかもしれへんね」

「人が通れば街道が整備される。道が整えば人が増える。人が増えれば有力なものが現れる。おいらたちもいつまでも自由ってわけにはいられないだろうねー。情報操作もうまいようだし、仲良くしといて損はないでしょー」

「あら、手柄をなかったことにされたのに心の広い発言やわあ」


「おいらは手柄なんていらないねー」

「ただ、手の届く限りは守りてえなあ。でしょ?」

 シモクレンは笑ってセリフを横取りした。お互いに笑いあう。


「おいら今回の一件で一番注目しているのは、ディルウィードの口伝だなあ」

「よくやった、弟分! ってこと?」


 そこで桜童子は言葉を切った。綺麗な青空が目に入る。


「ステータスウィンドウ。念話。呪いの椅子。黒狸族の抜け穴。臨死体験の海。太陽石の時計。そして呪文の再構築。―――この世界の美しさにおいらたちは地球に似たどこか違う惑星に立っているつもりになっていたんだが、やはりおいらはそうじゃないと思う」


「にゃあちゃん?」


「レンはこの世界をどう考えている? たまたま<エルダーテイル>の世界にそっくりな星が地球の近くにあって、数万人のプレイヤーが一気に転送されたと?」

「い、いやあ。それはなんとも。ただ、別世界に来たなあって、それだけ」

「そのまま受け入れるとは、それこそ心が広いねえ」


 シモクレンと桜童子は笑いあった。だがそのあとシモクレンはじっと桜童子の目を見つめていた。話を聞きたがっているようだ。桜童子は腕を組む、というより腹部に手を当てた格好で言った。


「広い心で聞いてくれ。この世界には<第三の知性>が存在しているのだと思う」



 シモクレンはどういう状況を想像すればいいかわからずただ黙って聞いている。桜童子は続けた。



「こんな考え方がある。世界は<観察者>の影響を受ける。これが観察者効果だ」

「その効果って、原子とか分子とかの小さな世界のことやなかったっけ?」

「量子だね。見るという行為そのものが光子で邪魔をするということだからねー。でもそれと同じことはいくらでも生活レベルで起こっているよ。たとえば顔」


「顔?」

「顔の右左は対象じゃない。その顔の右半分と左半分、どちらの方が見る人に影響を与えやすいか知ってる?」

「え? そんなん決まってるん?」

「多くの人が右利きだということを前提に言うけど、顔の左側が影響を与えやすい」

「ほんまに? なんで?」

「特に右利きに顕著なんだが、<観察者>は左の視野の情報を重要視してしまいがちなんだ」


 桜童子はベンチから降りて地面に絵を描いた。向かって左半分が笑顔で右半分が悲しげな顔。それをもうひとつ描く。こちらは右半分が笑顔で左半分が悲しげな表情。

「パッと見てどっちがより悲しげに見える?」

「あとから描いた方……って、どっちも同じなはずなんに!」

「ここで驚いてもらっちゃ観察者効果まで話がたどり着かない。おいらの知り合いに顔の左右でずいぶん印象の違う女の子がいてねえ」


「女の子、ねえ」

 じっとりとした目でシモクレンは桜童子を睨めつける。桜童子はひとつ咳払いして続ける。

「おほん。その女の子の右側、つまり向かって左側の顔は精悍な顔つきで、逆に向かって右側の顔は柔和で少女らしい顔つきだ。さて彼女はみんなに『男勝り』と映るか、『フェミニン』と映るか。どっちだと思う」

「その子の性格にもよるやろうけど、『男勝り』ってことになるのかな」

「その性格に観察者効果が現れたんだ」

「周りの人が『男勝り』と思って見るから、その子も『男勝り』になっていったってこと?」


「期待に応えようとしたのだろうけど、彼女はなぜ自分がそれほど『男勝り』に見られるかが実はわからなかった。鏡で見ている自分は『フェミニン』な顔をしていたからね」

「ああ、そうか。左右逆やもんね。そりゃあギャップありそうやねえ」

「部屋などはそのギャップの最たるものだね。本当はフェミニンなものに憧れてはいるのだけれど、求められる自分像とのギャップに苦しんで折衷したところで落ち着いた。男という生き物は視覚に大きな影響を受けるから、こと恋愛においては苦労したようだよ。寄ってくる男性が彼女に期待するものと、彼女が求めるものにもギャップがありすぎた」


「あー、なんかわかるなあ。その子幸せになれた?」

「彼女の外面よりもよく内面を観察する男性が現れてね。少なくとも自己像と他者認識とのギャップに苦しむことはなくなったね」


「その男の人って……にゃあちゃん?」

 じっとりと睨めつけるシモクレン。桜童子は動揺して咳き込んでしまったが首を必死に横に振った。



「ともかく、その子は<観察者>が見ている通りのキャラクターを演じることになったわけね。観察者効果は身近なところでも起こりうるってのはわかった。でもウチらが<冒険者>を演じるほどの観察者効果って起こりうる?」


「生身の人間がゲームキャラクターになる観察者効果はおいらはかなり難しいと考えているよ」

「え、それじゃあ」


 シモクレンがハッとして桜童子を見つめた。


「答え合わせが必要かい?」


 そのとき何かが弾けるような音が聞こえて、悲鳴とも歓声ともつかぬ声が響いた。



■◇■



「へーぃ。お届け物に上がりましたにゃっす」


 クロネッカによってソファで寝ていたバジルは無遠慮に叩き起されてしまった。

 それに対してバジルが苦情を申し立てるとクロネッカは謝った。

「申し訳ありませんにゃっすー。弊社は目的地お届けにゃっすから。受け取りのサインを頂いてもいいにゃっすか」


 不承不承バジルは手紙を受け取るとサインを書き殴る。受け取り証から煙が上がるがバジルは平然としていた。眠かったのだ。とりあえず手紙の封を切る。


「外はなんの祭りにゃっすか? ものすごい賑わいにゃっすね。ってそれ、イタドリさんって方に読んでもらわないと」

「んお! なんだこれ! ラブレターか! おいおいおい、そういやさっきどっかで同じ封筒を見たぞ! おいおいおい、ちょっと、そこの猫太郎、一緒に探してくれ」

「クロネッカ=デルタにゃっす。だから勝手に読んじゃあ後で問題になっても知らないにゃっすよ」

「こまけえこと言ってんじゃあないよお。ホラ、そっちだそっち」


 <ノーラフィル>が受け取って束にしておいた封筒をクロネッカは手渡す。

「ああ、そうそう。伝言も頼まれてたんで聞いてもらえるにゃっすか?」

「この結び目きっついな。なんか切るもの、あれ、オレ様ナイフどこやったっけ。ちょっと猫太郎探してもらえるかな」

「我が殿<パンナイル>領主ライツ=ブライツ=リーフトゥルク様より伝言にゃっす。『この度の功労悼み入る。<パンナイル>においては優遇したい』とのことにゃっす」

 かなり大事な伝言であったようで日付も言っていたが、寝起きでディルウィードの手紙の内容しか興味がなかったバジルは「サンキューサンキュー」と言って聞き流してしまった。


 その時である。バジルたちは爆発音を耳にした。



「はーっはっはー! 佳い佳い! 威勢よく燃えるが佳いー!」


 バジルが外に出てみると、午前中多くの者が一生懸命積んでおいた大広場の木材が天を焦がす勢いで燃え上がっている。


「お、おめえは桜童子の従者の!」

 そう言って牛にまたがる稚児に手を伸ばす。その瞬間、稚児に吹き飛ばされた。

「学習せぬな。このあやかしオオカミは」

「げ、げふぉ! またビリっときたあ! こんにゃろ、勝手に木を燃やしやがって」

「ちゃんとワシは確認したのじゃぞ。この木は使い道が決まっておらぬと。佳いではないか。どんど焼きじゃ。風流じゃろう」


 文句を言おうとして立ち上がったバジルを、今度は背後から虎が頭突きで跳ね飛ばす。

「こらー! 腐れバジルー! 仕事をすっぽかしてどこに隠れてたにゃー!」

「ぐっはー! おっめーら寄ってたかってオレ様をなぶりやがって。ってあれ? 手紙どこ行った?」


 胸元をパンパンとする。その手にもさっきまで持っていた手紙がない。辺りを見ても落ちていない。ふと、後ろを振り返ると、手紙は渦巻く熱気に絡め取られ、炎の中で燃え尽きようとしていた。


「す、すまねえ、ディル坊」

「なんじゃ、あやかしオオカミ宛の恋文じゃったか。まあ火の中に吹き飛ばされるのを見守るしかなかったがの」

「オレ様のじゃあねえよ。あー、ドリの介になんて言ってやったらいいか」

「佳い佳い。思いなぞ会って交わす方が百倍も佳い。もはや会えぬ相手というわけでもあるまい。なんならわしが歌でも詠んでやろうか」

「いらねーよ。それ、ダレ得だよ。おめえが歌読んだからって」


「おいおい、バジル。この国でも名高い歌詠みの魂を持つ<火雷天神>になんてこと言ってんのー。っていうか<火雷天神宮>にしばらくいるんじゃなかったんですかー?」

 桜童子とシモクレンが外の様子を見に出てきた。


「おお、あやかしウサギ。そなたの<蒼球の玉匣>が懐かしくなっての。少しばかり蓋を開いてもらおうかと」

「じっくり熟成させろって言ったのはどこのどなたですかねー」

「わしは<冒険者>を倒して腹が減っておるのじゃ。佳いではないか」

「殆どはおいらが倒したんですけどー」


 そこに空中デートを楽しんでいたイングリッドとハギが竜にまたがって舞い戻ってきた。

「もーり上がってる盛り上がってるーぅ。踊り子の血が騒ぐわー」

「あったかいって言ってもまだ一月ですからね、脱がないでくださいよ。って、そもそも<歌姫>でしょう?」

「ちぇー! ハギしゃん堅物ー! バリカタっちゃんねー」


「みんなー、お肉じゃんじゃん焼くから集まるんだよー!」


 てるるの呼び込みに【工房ハナノナ】の面々も食事の輪に加わる。

<大地人>も<冒険者>も<エネミー>もなく、みなで、生きている喜びを分かちあった。今はこの安らぎがあれば、世界の秘密など瑣末なことにも思えてくるのだった。

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