エルフとキンニク
この世界には知性をもつ種族が多く存在する。
エルフという種族もまたその一つだった
エルフと聞いて何を思い描くだろうか。
ユフィはまず何よりもその儚さを思い描く。
実際の所彼らは人間であるユフィよりほんのり、少し、だいぶ、ものすごおおおく長い寿命を持っていて、何というか、なかなか「儚くならない」存在なのだが。更に言うとエルフという種族は弓も剣も魔法もうまくて、身軽だし、戦わせたら大抵の種族より強い。それはもう人間でたとえるなら兵隊百人はお茶の子さいさいである。
そう、イメージとは裏腹にエルフというやつは図太い種族なのだ。
だとしても、やはり色素が薄い麗しい見た目は、虫一つ殺せなさそうな、霞を食べて暮らしているような儚いイメージを思い描かせる……
「かーーうめえ!! やっぱ肉はいい!! 主食はやっぱり肉だよな! 肉!! 煮込みも悪くねーがやっぱり俺は丸焼きが一番だぜ!」
それに他種族、特に俗な生き方をする人間との交流を経っていて、高潔な……
「おい、おやっさん! エールが足りねーぞ! へへっ、なにせ人間の作る酒は天下一品だかんなー。もう街に来たらエールがないと始まんねえ。故郷じゃいつでもワインかシャンパンかブランデーかって感じでパンチが足りねえ! もっとこう濁ったシュワシュワな苦味がほしーんだよ。あーやっぱオレも人間に生まれたかったぜ!!」
えーと、細身で長身ですらっとね、スラっとしていたわよね。
エルフ イズ スラット。
「なーーに言ってるんだか! おめえのその巨体で人間なんて無理無理。何メートルあるんだ? どこをどう見ても巨人族にしか見えねえぞ! ガハハハハ」
「何メートルって、せいぜい頑張っても二メートルねーはずだぜ。七十四年前に測った時はそーだった! あ、いやあれから伸びた気もするが!! ガハハハハハハハハ」
「………っ!」
肉質はガッチリむっきり筋肉。背中にはでっかい斧。ヒゲは伸び放題で胸毛もチラリとしている。真っ白い歯がかろうじてそれっぽい真白い肌から覗いている。
エルフとは何なのか。
ある種の哲学的な疑問を抱かせる、そんな男だ。
名をレオンツィーオ。
名前は麗しい。エルフにふさわしい。だが正直な所、ドワーフと言われたほうが納得がいく。身長以外は完璧だ。金のドワーフ、そんな感じだ。
「……ってかそんなにガンガン飲まないでよ! 肉食べすぎ。野菜も食べなさい、じゃない、お金が足りなくなるじゃない! まだ仕事受けてないのよ? あたしは貸さないんだから」
ユフィとレオンツィーオは同じ傭兵団の仲間だ。
村や町を魔物から守ったり、要人の護衛をしたり、荷運びをしたり、山を駆け回ったり、海に落し物を拾いにいったりと、細やかな仕事をして生活をしていた。
ので、お互いの懐事情も手に取るように分かる。
最近は大きな仕事がなく、財布が軽い。
「うーーーーーむ……ま、固いこと言いっこなしで。なーに、明日にはゴブリンでもコボルトでもオークでも倒してやらあだいじょーぶだって!」
そうして彼はガハハと声を上げ、ユフィの頭をまぜた。ガシガシと勢い良く。
「やめてよ。髪が乱れるでしょ」
レオンツィーオの手を払った。
ついでにその胸に裏手をおみまいしてみたが、全くきく気がしない。鋼だ。
「ったく、お願いだから私たち矮小な人間の小さな夢と希望を潰さないで欲しいのだけれども」
「おっ? 少女よ、夢は良いもんだ、うむうむ」
「だーかーらー現在進行形で今まさに『森に住む神秘の種族、麗しのエルフ像』という夢が破壊されているのだけれども」
びしっと指をさす。指の先にはむっきむきな筋肉とチラリズムの胸毛。
ちらっと見るだけで魔法弾の直撃より強い大ダメージを受ける。
「いやなーオレも気になってるっつーか、オレのオヤジって細身でひょろいんだよなー。色は白いを超えて青白い? みたいな? 背もちっこくて百八十やっとしかねーし」
人間基準で言うなら十分高くに感じるが……種の違いは本当に大きいものだ。
「母上サマの方も別に高くないしなあ……こう蜂蜜色の髪をしたほわほわとしたないかにもエルフのお嬢さんって感じよ。ま、見た目だけだけど」
レオンツィーオは手を動かして何かを伝えようとしてくる。どうやらほわほわ加減を表現したいらしいのだが、動きが大振りすぎてゴツゴツっぽいイメージが出来てしまった。
……にしても。
「オヤジに母上様」
「強者におもねるのも人生の秘訣なんよ、ひよっこいの」
「こう見えて冒険者を5年はやってるんだけれども?」
「おーおーひよっこいを超えてたまごだったな」
「ほんっっっっとに失礼ね」
「はははは、まあーエルフだしなあ。んー……オレだって悩むんだぞ? だってよー両親に似てないってやばくね? もしかしてオレって隠し子じゃね? たまごはオレの方ってか、託卵されてるよな?」
「え? 何それ、いきなりヘビィな話振らないでよ」
「わー考え出したら実家に帰れねえ! どーしよー! ユフィちゃあーん。今度っからオヤジの顔をどう見ればいいんだ!?」
「あ、あたしに泣きつかないでよ」
巨漢の男の嘘泣きは堪えた。
対応に困るという意味で。
「おおうおおう……こうなったら爺ちゃん連れて母上サマに向かい合うしかねえ! きっと爺ちゃんなら、母上サマの弓をくらおうが剣をくらおうがびくともしねーハズだ! ついでにオヤジの破壊魔法食らっても!! 何せ、オレより背が高くて力があるからな! もー体なんてガッチガチでアダマンタイトの大剣持ってきても斬れなさそうだし。うむ!」
「托卵どころか完全に遺伝じゃない!!!!!!!!!!!!」
「ハハハハハハハ、そー言うかもな。ようオヤジ! 今度はワインだ!」
「あ、あんたなんて二日酔いで苦しめばいいのよ!!!」
しかし翌日、気分爽快のエルフが斧を振り回してゴブリンを退治しているところをユフィは見せつけられる事になるだけだったのだ。
作中で出てきたエルフによる「ひよっこい」という人間表現はなろうで頻子さんが連載中の『エルフ@オンライン エルフの勇者のエピローグ』 http://ncode.syosetu.com/n6114cu/ に着想を得ています。すっごい面白い小説なのでぜひそちらも見てみてください。彼女の小説のおもしろ人外は本当におもしろ人外で憧れます。