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ハードシップメークス  作者: 小走煌
7 秋の大会
73/227

香椎東対柳川女子⑭

 若月慧は絶望していた。

 最早自分には付いて行けない高次元の争い。それに試合終了まで参加しなければならないという事実。

 この試合、リードを許している責任は自分にあるということは痛感している。出来ることならその汚名を返上したいとも思う。

 しかし、目の前の相手はとても素人の慧がどうこう出来る代物では無かった。何せ華凛をはじめ、香椎東の誰にも手がつけられないのだ。

 慧自身もこの試合、ボールにバットを当てることが出来ていない。練習してきたバントを試してみようかとも考えたが、すぐに自分の中で却下した。あの豪速球をバントだなんてとんでもない。

 そうこうしているうちに九回の裏がやってきていた。慧はこの回の先頭バッターである。

 あと三人凡退したら試合終了という事実に身が震える。しかし、長いイニングを過ごしたことから序盤ほどの緊張は最早無いに等しかった。

 でも今さら緊張が消えていてもどうしようもないーーそんなことを思いながら慧は打席に立った。幸い、ベンチからはツーストライクまで待つようにという指示が出ている。指示があれば打席であれこれ考えなくても良い。しかもそれは追い込まれるまでただ待つという簡単なもの。その後は適当にバットを振っても特に問題は無い。そんな考えが慧の気を紛らわせた。

「……」

 無言でボールを見る。案の定、慧は二球で追い込まれた。相手投手のボールがこれまで程のスピードを伴っていないことを除けば、特別感じることは何も無い。強いて言えば軌道がこれまでと違う気がしたが、これがいわゆる変化球というものなのだろうと自己解決した。きっと凄いボールなのだろうということは感じるが、具体的に何がどう凄いのかは慧にはよく分からなかった。

 さて、三球目がやってくる。折角だしスイングしてみるかと軽い気持ちでバットを出す。


 その瞬間、慧にとって信じ難いことが起きた。


 どうやらバットに当たったらしいボール。飛んでいくボール。それはセンターとライトの中間点に飛んでいるらしいことが慧の目に映った。

 慧は弾かれるように走り出した。理解はしていないがとにかく走らねばならない。急いで走らねばならない。一つ目のベースを蹴り、二つ目のベースも蹴る。

 やっとの思いで三つ目のベースに辿り着く。直後にやってくる激しい動悸。必死に呼吸を整えようとするが、悲鳴を上げる身体がそれを許さない。

 やがて、慧の耳に何かが届いた。

 絶叫と拍手の嵐。さながら祭りの会場にでもいるようなその大歓声。それが自分に対して注がれていることに、慧は遅れて気付いた。

 スリーベースヒット。香椎東高校にとって本日最大のチャンスを、慧がもたらした。動悸が徐々に収まっていくと共に、その状況が客観的に分かるようになる。


 ーーその瞬間、再び動悸が起こった。

 これは体力的なものでは無い。全く異質の、心地を悪くさせるもの。

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