表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハードシップメークス  作者: 小走煌
4 [練習試合]香椎東対天神商業
35/227

香椎東対天神商業8

「あーーっもうムカつく! ムカツク! よりによって直子に打たれるなんて!!」

 悠莉はベンチに戻るや否や頬を膨らませた。

 二番の文乃を打ち取って香椎東の攻撃は終了させたものの、かつてのチームメイトである直子に鮮やかな安打を許し、二点の先制を許したことがプライドを大きく傷つけた。

「ぜったい……絶対取り返してやるんだから……!」

 目を細め、センターの直子を直視する。センターへ痛烈な打球を弾き返すイメージを充分に作ってから、自軍の打者に目を向ける。

 しかし、早くも相手投手の梓に二つのアウトを奪われていた。一巡が終了し、一番打者の上条が二回目の打席へ向かうところだった。

「ふーん、あの娘もなかなかやるわね……」

 一巡目とはいえ、天神商業打線が一安打に抑え込まれる事は珍しい。まして、初戦敗退している高校にこれほどのピッチャーがいることは驚くべきことだが、この場においては投手としてライバル意識を燃やすことなく、悠莉はあくまで打者として梓を打ち崩すべく考えを巡らせた。

「……冷静にいけば打てない球じゃない。二巡目に入ったし、皆もこのまま黙ってやられ続けるほどヤワじゃない」

 そう呟き、梓の投球をベンチからじっと観察する。

「ボール! フォア!」

 フルカウントまでもつれた末、やがて上条は四球を選び出塁することに成功した。心の中で悠莉はほくそ笑む。

「よしよし……頼むわよ蓮花。あたしまで回してちょうだい」

 ヘルメットをかぶり、悠莉はネクストバッターズサークルに入った。


「しまった、少し慎重に行き過ぎたか……」

 最後のボールを受け、豊は後悔の念に駆られる。

 梓のコントロールは少しも狂っていない。二巡目の天神商業は一巡目以上に恐怖。その考えが頭にあったからこそ、細かく細かくコーナーを要求し、結果、打たれることなく出塁を許してしまった。反省をしつつ、次打者へ意識を向ける。

 打席には二番打者、蓮花が入った。一巡した結果、豊の中では、この蓮花こそ堀川の次に警戒すべき打者という結論に至っていた。しかし少なくとも堀川の前にランナーは溜めたくない。どうにかして、ここで切りたい。

 前を向き梓へサインを送るが、一塁走者の動向が気になりどうしてもスピードのある球を要求してしまう。カットボールとストレート、いずれも外角へ僅かに外れ、ボール球が二つ先行した。

 豊の脳裏に一打席目の痛烈な打球が蘇る。内角など、要求出来るはずもない。ここは外、外で耐えるしかない。

 三球目、豊は外角にストレートを要求した。梓のボールは豊の要求通りゾーンぎりぎりのコースに投じられる。

 しかし直後、耳をつんざく打球音がこだまする。芯で捉えられた打球はライナーで捺の頭上を越え、レフト前へ到達した。あまりにも完璧な当たりに豊は思わず俯く。攻め方に間違いがあったか自問自答する。

「よし! さすが!」

 しかし、甲高い声に思考の時間を遮られる。三番打者である悠莉が、踊るようにネクストバッターズサークルから打席へ登場した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ