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ハードシップメークス  作者: 小走煌
3 新チームの結成を目指して
20/227

部員を獲得するには

登場人物


若月慧(わかつきけい)

高校一年生。文芸部へ入部する決意を固めたものの、野球部へ入部させられてしまう。部員勧誘に頭を悩ませる。


伊勢崎華凛(いせさきかりん)

高校一年生。慧を野球部に誘う。周囲の視線を奪う容姿の持ち主であり中学時代は名のある選手だったらしい。ただし硬式野球は高校から。部員勧誘に頭を悩ませる。


天宮捺(あまみやなつ)

高校二年生。野球部部長。楽天的な性格。部員勧誘に頭を悩ませる。


近藤千春(こんどうちはる)

高校二年生。野球部副部長。真面目な性格。部員勧誘に頭を悩ませる。

「おつかれ! どうだった? いいキャッチャー見つかった? それかやる気のある子か、なんにせよ誰かしら興味持ってくれたかしら……!?」

 部室に着くなり目をキラキラ輝かせながらまくし立てて来る部長に圧倒される。

「え、や、あの……」

 ――成果ゼロ、とは言いにくいよなあ……。

 回答に詰まりまごまごする慧をよそに、隣の華凛がそれに答えた。

「捺先輩、今日は駄目でした」

「あら、そう……」

 香椎東高校女子野球部の部長たる捺は報告を受け、一瞬でションボリしてしまった。

「今日やってみて思った事ですが……」

 一呼吸置いて、華凛が進言する。

「……この時期に新しく部員を確保するのはやはり難しいように感じます。特にキャッチャーは経験者でなければ出来ないポジション。せめて「未経験者募集」などと募集の文を変えるべきではないでしょうか」

 華凛のその提案に、捺は腑に落ちない様子で唸った。

「そうよね。意見ありがとう……でも、どうしてもキャッチャーが欲しいのよね」

「そう、ですか……」

「うん。私ショートだから」

 そう言いながら窓際にある部長の椅子に腰掛けた捺は、机に肘をつきおもむろに顔の前で両手を組む。その姿勢で華凛を見据えてゆっくりと語り出した。

「……あのあと、負けた原因はなんだったんだろうって、いろいろ考えたわ」

 あのあと、というのはつい最近起きた夏の大会での初戦敗退の事だというのは華凛も慧も察しがついた。捺の独白に、二人は押し黙り二の句を待った。

「長いこと試合してなかったことによるブランク、要所要所での判断力の鈍り……おおむね私がしっかりしてれば確実に取れた試合だったという結論が出たわ」

「そ、そんな……」

「でも一方で、それぞれが適正ポジションに就く必要性もあるわ」

 先輩は悪くない、と言わんばかりに声のトーンが瞬間的に上がった華凛を制し、捺は続ける。

「私以外にも直子は本来センター、千春はサードだし。今のチームでは私がキャッチャーをやるしか無いから必然ショートが空く。それで二人に比較的経験のあるポジションをやってもらった。確かに二人は良くやってくれたと思うけど、やっぱりサブポジションは緊急用であるべきだと思うの」

「……」

「それに……私も最初からショートならまだまともな判断が出来たかも知れないって、思ってね」

「先輩……」

 華凛も慧も、捺の考えに反対する事は出来なかった。

「ま、そういうわけでキャッチャーが欲しいなーって思うのよ。とりあえず今日は無理だった事は了解したわ。明日からまたチャレンジかしらね。私も一緒にやった方が良いかしらね……」

 瞬時に元の陽気に戻った捺は、言葉の終わりが独り言のようになりながらロッカーを開け放ち鞄を取り出す。それに倣い、華凛と慧も着替えを開始した。


「部員、どうやったら集まるだろうね」

「難しいわね」

 学校から離れた場所に位置する空き地で、キャッチボールしながら慧と華凛は今後について頭を捻っていた。

「最低一人は集めないとそもそも大会に出られないわけだし……なりふり構っていられないわね」

 華凛が熱を持った発言をする。

「うん……」

 相槌を打ちながら、慧の頭は違う方向を向いていた。

 ――わたしとしては、とりあえず裏方に回れれば良いんだよなあ……。

 自分が試合に出ずにいられるようにしたいという全く反対のベクトルをもって、慧は部員獲得への情熱を燃やしていた。

「それならやっぱり、ボードのデザインを良くしないとねっ!」

 情熱が余って慧は思わずボードの事を口に出してしまう。きょとんとする華凛の横で、いち早くその単語に反応した人物がいた。

「や、やっぱり、部員が集まらないのはボードのデザインが原因だったのね……」

 その正体は今正にキャッチボールを始めようとしていた捺だった。おいおい泣き出しそうな様子で続ける。

「そうよ……たしかに私はこういうのセンスないから……完成品見てもどうかと思ったけどお……」

「す、すいません……! そ、そんなつもりで言ったんじゃ……」

 慧は冷や汗をかきながら必死にフォローする。その横で、捺のキャッチボール相手である近藤千春は呆れ顔をしていた。

「全く。どうしたというのですか、一体」

「いや、部員募集のボードなんだけどね」

 泣きべそから急に真面目な表情に切り替わった。捺のその器用さに慧は目を丸くする。

「私がパッと作ったのだからあんまり良い物じゃないのよね。もっとちゃんと作った方が良いか……あっ」

 首を傾げて考える捺は直後、何かに気付いたように顔を上げた。

「そっか……そう言えば適任がいたわ」

 そう言いながら華凛達と反対の方向を見る。そこには、キャッチボール前の柔軟体操を入念に行う二年生の姿があった。

20151012

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