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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
199/227

必殺

「でかしたケイちゃん! あたしが歩いて返してやる!」

 やっと一塁ベースを踏んだ慧の元に威勢の良過ぎる声が届いた。本塁の方に振り向くと、直子がバットを勢い良く何度も回し、バッターボックスに入るところだった。

「ふーん、何だか自信ありげだけど……そう簡単にあたしのボールが打てると思ったら大間違いよ!」

 村田はそう言うなりセットポジションに入った。それを見てすかさずリードを取るが、ベースから三歩離れたところでふと村田と目が合う。

 これだ。左投手の厄介なポイント。左投手は目線だけで簡単に牽制出来るからリードを非常に取りづらい。慧は警戒のあまり、三歩以上のリードを取れない。

 しかし、幸いにも村田は慧に構う様子は特に見られず、そのまま第一球を投じた。

「……うりゃっ!」

 雄叫びと共に繰り出される直子のフルスイング。打球は三塁線から左に逸れたファールとなった。

「良いぞ直子!」

 香椎東ベンチから歓声が飛ぶ。慧は純粋に驚いた。確かに今のは良い当たりだった。先ほどの自信たっぷりな様子といい、呟いた意味深な言葉といい、直子は何かを掴んだのだろうか。

「なるほど。なかなかやるじゃない」

 村田は不適な笑みを浮かべた。

「こっちだって、やられっぱなしじゃまずいんでね!」

 直子はバットでホームベースを軽く叩き、また構える。それを見て村田はセットポジションに入り、第二球を投じた。

「はっ!」

 またも直子の鋭いスイングがボールを捉える。

 瞬間、会場が沸いた。打球は大飛球となりレフトへ飛んでいく。しかし左に逸れ、ファールとなった。

「やるじゃない。あたしのストレートについて来るなんて」

「へへっ、まあね」

 直子は両手に持ったバットを肩に乗せて言った。

「ベンチからずっと観察してた。そいで打席に立ってみて分かったけど……ストレートだけなら思いっきり集中してれば、当てるのはさほど苦じゃない。二球ともファールになっちゃったけど、次は捉える」

 バットを高く天にかざし、構える。威風堂々。味方の慧から見ても惚れ惚れするような所作だった。

「ふふ……」

 対する村田は相変わらず笑っている。状況としてはピンチのはずなのに、一体何が面白いのか。

「……このあたしがストレートだけとでも?」

「ま、何かの変化球はあるだろうね。そんなのは来た時に考えれば良いさ」

「そう、お気楽だこと……なら良いわ、見せてあげる。このあたしの必殺ボール!」

 そう叫ぶなり村田はセットポジションから大きく足を上げ、腕を振った。

 ストレート。慧の目にはそう見えた。速さも軌道もこれまでの二球と変わらない。

「もらった!」

 直子が声を上げスイングする――しかし次の瞬間、直子は膝をついていた。

「どう、ストレートと見分けつかないでしょう。これがあたしの必殺ボール。三つあるうちの一つよ!」

 村田は左拳を握り締め、天に突き上げた。

 慧は息を呑んでその状況を見ていた。脅威。明らかな脅威だ。あのストレートに今の謎のボールが組み合わさったら攻略は困難。それは、チームの中でも対応力に優れている直子があえなく三振したことが証明していた。

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