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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
197/227

役立つ

 駆け足でベンチへ戻る。身体はちょっとした興奮状態だ。守備が終わって戻るだけなのにその足は速まる一方だ。

 先に到着した皆が次々にベンチへ入っていく。その波に乗ろうと入口の段差に足を掛けた瞬間、後ろから不意に抱きつかれた。

「ケイちゃん、やったね!」

 犯人は直子だと声で判断出来た。振りほどこうにも締めつける力が強く、抵抗出来ない。その声が引き金となって、一旦ベンチに引っ込んだ他のメンバーが次々にこちらを振り向いた。

「良く捕ってくれたわ。あれが落ちてたら苦しくなってた。ファインプレイよ、慧」

 捺が頭を撫でながら称賛の言葉を掛けてくれた。

「やるなあオイ、俺だったら危なかったぜ」

「それは感想が正直過ぎますよ、清」

 レフトから遅れてやって来た清の声に、ベンチから千春がすかさず突っ込みを入れる。

「いや、本気で助かったっす。あの力持ち、芯を外したのに一番深いところまで持っていきやがって……」

 豊が防具を外し終わらないうちに話に割り込んだ。

「最後のボールは、カット?」

 捺の問いに、いつの間にか豊の隣にいた梓がコクリと頷いた。

「コースは完璧だったっす。威力もあった。あそこまで持ってったのは、あのバッターの実力っすね」

「さすが和白の強力打線と言ったところかしら」

 捺の言ったカット、とはカットボールのことだろうか。二人は何やら込み入った話を続けていた。梓は黙ってその話を聞いているようだった。少し気になって様子を見ていると、慧の視界に文乃が入り込んで来た。

「あの……慧ちゃんこの回先頭だから、もう離してあげないと」

「ああ、そっか」

 直子の間の抜けた声と共に慧は拘束を解かれた。ついバランスを崩し、ベンチの段差を駆けるようにして降りる。

「っとと……!」

 直後、転びそうになる身体を支えられた。華凛だ。

「アンタ、大丈夫? 危なっかしいわね……」

「ご、ごめん……!」

 反射的に頭を下げる。すると、華凛が急に慧の両肩を掴んで来た。

「ナイスキャッチだったわ」

 凛とした瞳がまっすぐこちらを見詰めて来る。照れ臭くなって視線を逸らしてしまう。

「背走は外野にとって難しいプレー。この大一番でそれが出来るなんて、もう立派な外野手よ。自信を持って良いわ」

 行っておいで、と華凛は両肩を離した。どうにか「あ、ありがとう……」とだけ告げ、慧は急いで準備をして打席に向かう。

 皆、褒めてくれた。

 こちらとしてはただ必死にやっただけだ。それが、皆にとっては貴重なプレーだったらしい。

「……やった」

 打席に着く前に一言だけ呟いた。言葉に表現するのは難しい。だけど、何というか、嬉しい。ただひたすらに嬉しかった。

 打席に入ると、長身の左腕がロジンを手に待ち構えていた。

「さーて、この回もバリバリいっくよー!」

 もっと浸っていたいが、そうもいかない。切り替えていかなければならない。慧はバットを目の前に深呼吸を一つして、構えに入った。

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