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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
193/227

賑やかさ

「な、何か見つかったんですか……?」

 慧は恐る恐る直子に尋ねた。

「あ、いや、まだだね。それよりケイちゃん次だからもう準備しないと」

「えっ……あっ、そうですね……!」

 慧は慌てて直子から離れ、ヘルメットとバットを取りネクストバッターズサークルへ向かった。しかし、直子の様子が引っ掛かる。

「直子先輩、なんだったんだろう……」

 直子の呟いた一言が慧にはやけに意味深に聞こえた。しかしその真意は分からない。慧はヘルメットを被り、梓の打席を見守ることにした。

「さあ、いっくよー!」

 相変わらず村田の声はここまで良く届いた。今打席に立っている梓とは正反対のピッチャーだ、と慧は思った。

 しかし投球のテンポはそっくりだとも感じる。無言で丁寧に淡々と投げる梓、大声を発しながら次々に剛球を投げ込む村田。スタイルは対照的だが、一球に掛かる時間はさほど変わらないような気がした。

 村田を観察しながらそんなことを考えている間に、当の村田は梓に対して既に三球を投じていた。

「良く見るねー、いつまで持つかな……っ!」

 これが四球目。追い込まれていた梓はスイングした。

 瞬間、金属音が凛と鳴った。

「なにっ……!」

 村田も驚きの声を上げた。梓の打球は二塁手の頭を越えようとするライナー。

 さすが梓先輩――そう思った次の瞬間、二塁を守る亜希乃が大きく上に跳んだ。あと一歩というところで、打球は亜希乃のグラブに収まってしまった。

「やったあ! おチビちゃんだけど頑張ったね」

 村田は大袈裟にバンザイをして亜希乃に駆け寄る。対する亜希乃は無言で帽子のつばを触り一礼した。

「ああ、惜しかった……」

 慧は思わず膝に手をついて俯いた。

 元々打撃に関してはセンスの良い梓。良い当たりが出ても不思議ではない。今の当たりがヒットになってくれれば同点のランナーとなった。しかしツーアウトで自分に回ってきた状況を想像すると膝が震える。

「ん、そう言えば……」

 その時慧の頭の中に、直子の「ボールには当たるのか」というあの言葉がよみがえった。この回、文乃、豊、そして梓と皆バットに当ててアウトになった。これが直子にとっては違和感だというのか。

「うーん……ダメだ、分からないや」

 あれこれ考えても仕方がない。慧はさっさとヘルメットとバットを片づけ守備に就くことにした。

 五回の表。試合の折り返し地点となるイニングを迎えても、相変わらずスタンドは盛り上がっていた。

 こんなに暑いんだからお家にいたら良いのに、と慧はぼんやり思う。しかし不思議だ。本来この場にいるはずのない自分が、全国への切符を賭けて今戦っている。なんだか変な気分、と思っていると、

「さあさあさあ、いっちょかましていくよ!」

 賑やかな声がライトまで届いた。村田だ。バットを天高く構え、その先端で円を描くようにグルグルと回している。

「元気なヒトだ、ほんと……」

 左打者のため定位置より下がりながら慧は溜め息をついた。あの元気のほんの少しでも貰えたらちょっとはマシなのかも知れない。

 次の瞬間。

「ライト!」

 聞こえてきた指示の声は直子か。しかしそれに構っている暇はなかった。打球は恐ろしいスピードで飛んできた。ワンバウンド、ツーバウンドして慧のグラブにすっぽりと収まる。

 慧は即座に文乃にボールを返し、一つ溜め息をついた。比較的捕りやすい軌道だったから助かった。これが地を這うゴロだったら危なかった。

「よっしゃ、やったあ!」

 村田は塁上でガッツポーズを見せた。その様は、野球を心から楽しんでいるかのようだった。

 こんな大舞台で良く楽しめるな、と慧はまた溜め息をついた。

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