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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
192/227

見つからない

「ほいじゃあ、行くよっ!」

 和白のエース、村田の声は香椎東ベンチまで届いた。そこから繰り出される快速球。打席の文乃は捺の指示を守って見送り、ストライクとなった。

「やっぱすげえ威力だ……」

 慧の隣にいた直子が唸る。しかし、その顔つきはとても滅入っているようには見えない。癖を探すその目つきはまさに真剣そのもの。

「な、何か、見つかりそうですか……?」

「んや、分かんないねえ。でもなーんか、見つけやすそうな感じではあるんだよなあ……」

「ほらもいっちょ行くよ!」

 直子のぼやきを遮るように、村田が第二球を投じた。ここで文乃がバントの構えを見せ、直前で引いた。

「おーっ、さすがに守備も鍛えられてるねえ」

「えっと……内野手が、ですか?」

「さすがケイちゃん、良く気づいたね」

 直子が言っているのは一塁手と三塁手の猛チャージのことだろう、と慧は推測したがどうやら当たっていたらしい。

「とんでもないスピードだ。仮にケイちゃんがファーストを守ってたとして、あんなすぐにチャージ出来ると思う?」

 直子の質問は今まで想像もしたことがないシチュエーションだった。

「そ、それは……分かりません……」

「ま、そうだよね。ケイちゃんは外野なわけだし」

 直子はあっけらかんとした調子で言う。しかし、目はマウンドをじっと見ていた。

「うーん、バントに対する反応は普通ってとこかな」

「そ、そうなんですか……?」

 慧には村田の動き出しは速いように見えた。しかし、投手のバントに対する動きなど今まで意識して見たことがないからこの動作が速いのか遅いのか判断がつかない。

「そうだね。でも決定的な弱点とは言えないなあ。何か見つかれば良いんだけど……」

 そう言って、直子は再び村田に集中し始めた。慧もつられてその挙動に注目する。マウンド上の彼女はポンとロジンを手に取ったかと思えばすかさず地面に叩きつけるように投げ、投球動作に入った。

「それじゃあこれで……いっちょあがり!」

 投じられたのはまたも快速球。文乃は懸命にバットを出す。直後鈍い音がして、転がった打球は力なく一塁手のグラブに収まった。ファーストゴロ。

「よっしゃ、ワンアウト!」

 村田は守備陣に向かって指を立てて合図を送った。和白の応援団がどんちゃん騒ぎのような歓声を上げる。

「あちゃー、残念。しょうがない、次だ」

 直子は俯いたがすぐに顔を上げ、マウンドを見詰めた。

「さーて、次も軽くアウトをいただいちゃうぞ……っと!」

 村田は次打者の豊に対してまたも快速球を投げ込む。対する豊は初球からバントの構えを見せた。

「バントで揺さぶる気かい? でもそんなの……通じないよ!」

 構わないというように村田はテンポ良く投球する。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだった。今度はボール球を二球挟み、豊は追い込まれた。

「これで……最後っ!」

 村田の快速球に豊のバットは辛うじて当たった。しかし、ボールはフェアゾーンには飛ばず、フラフラとキャッチャーの真上に上がり、やがてミットに収まった。

「オッケー、ツーアウト!」

 上げたくないアウトカウントを淡々と献上してしまう。これが和白のエース、村田の力ということか。

 しかしその時、直子が何か含みがあるように呟いた。

「うーん、ボールには当たるのか」

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