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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
190/227

助っ人

 慧は反射的に半身になり、打球に注目する。

 飛んで来たこのボールがどこに行くのか。前か後ろか。全身で感じる。

「……前だ!」

 方針が定まるや否や即座に駆け出す。打球が比較的高く上がったからか、ある程度の余裕を持って落下地点に入ることが出来た。

 そこから慧はグラブを天にかざすように掲げ、右手でボールを押さえる。すぐさま空いた左手でグラブを覆い、決して落とさないようにしっかりと固定する。

「や、やった……」

 グラブのポケットにボールが収まっているのを確認し、慧は文乃へ返球した。この試合初めての守備機会。無難にこなすことが出来てつい嬉しくなる。

 その時、会場が歓声に沸いた。香椎東ナインも皆「ナイスキャッチ!」と声を掛けてくれるが、スタンドからも慧に向かって声援が送られているかのようだった。

 慧は定位置に戻りながら気恥ずかしくなる。今までの試合でももしかしたら声援を受けていたのかも知れない。しかし、それはあまり意識出来なかった。ボールを追うのに必死で入ってこなかったのだ。

 今日の観衆はこれまでの試合とは比にならないほど多い。人が多いと声援も多くなるのか。慧はグラブで顔を隠してしまいたくなった。

「オッケー、ワンアウト!」

 内野から確認の声が届いた。それに応じ、どうにか平静を取り戻すと次のバッターが現れた。

『七番、レフト、中村さん』

 和白の打者が今度は右打席に入った。この試合、右バッターは警戒すべきポイントだ。慧の心臓はまた高く鳴る。梓が投球するまでの限られた時間で、一つ深呼吸をする。

 一回目の守備機会をこなせれば後は大体なんとかなるはずだ。でも今日はお客さんが多い――その存在は慧に余分な緊張感を寄越してくる。今度打球が来たら、どうなってしまうだろう。

 しかし、梓がそんな慧の気持ちを悟ったわけではないだろうが、テンポ良くストライクを集める。ボール球を一球挟んで三球で追い込み、四球目、外角低めに逃げるスライダーで注意すべき右バッターを空振り三振に切って取った。

「ナイスピッチング!」

 やった。アウトが増えたことに嬉しくなり、慧は梓にありったけの声を送る。

 しかし、会場の歓声がそれをかき消した。ざわめく声、追っかけのような制服姿の少女達の黄色い声援、そのどれもが今まで聞いたことがないほど大きい。

 大歓声が香椎東に送られている。振り返ればこの試合何度かあったことだが、慧はライトのポジションで改めてそれを強く意識した。

「す、すごい……これってすごいことだ……」

 慧は今までたった九人で戦ってきたと思っていたが、特に今日に限ってはそんなことはなさそうだった。この応援は、緊張感を強くするためにあるのではなく、一緒に戦ってくれる助っ人のようなもの。そう気づいた時、慧は心強さを感じた。その歓声に乗せられてか、梓が八番バッターも簡単に追い込んだ。

「ストライク! バッターアウト!」

 そして最後のコールがライトまで届いた。七番バッターに続き、八番バッターも三振に仕留めたのだ。

 慧は走ってベンチに戻る。応援してくれる人がいるのなら、この試合、余計に負けられない。ふとそんなことを思った。

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