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ハードシップメークス  作者: 小走煌
3 新チームの結成を目指して
19/227

足りないので

登場人物


若月慧(わかつきけい)

高校一年生。文芸部へ入部する決意を固めたものの、野球部へ入部させられてしまう。いやいや参加は相変わらず。


伊勢崎華凛(いせさきかりん)

高校一年生。慧を野球部に誘う。周囲の視線を奪う容姿の持ち主であり中学時代は名のある選手だったらしい。ただし硬式野球は高校から。

「……なかなか見てくれないね」

「そういうもんでしょ」

「そ、それはまあ……そうかも……」

 冷静な返答に相槌を打ち、若月慧はボードを持ったまま首をすくめる。小柄な身体がますます小さくなった。

「うーん……」

 慧を縮こまらせた張本人は、掲げていたボードを脇に抱えて腕組みする。

「ど、どうしたの……?」

「……やっぱりこのままじゃ良くないわね」

 慧に対してそっけない態度を取っておきながらも現状に危機感を抱いたらしく、腕組みした状態のまま渋い表情で唸った。

「アピールが足りないのかしら……」

 端麗な顔立ちには似合わない苦悶の表情を浮かべる。

 そのスラリとした長身は、隣に立つ慧との対比でより際立っていた。それに加えて清潔感のある容姿、名前の通り凛とした瞳、均整の取れたスタイルを装備し、廊下を歩く多くの男子生徒の目を惹き付けた。

 まるで完璧超人のような彼女、伊勢崎華凛。しかし、そんな彼女をもってしても解決が困難な問題にぶつかっている。

「ボードの見栄えが良くないのかしら」

「うーん……字は読みやすくはあるけど……」

 二人の掲げるボードは派手に装飾され、中央には「募集! 女子野球に興味ある方! キャッチャー歓迎!」の文字が踊っていた。

「ちょっと派手過ぎると言うか、けばけばしいのよね」

「そ、そうかな……」

「キャッチャー歓迎、が余計かしらね」

「う、うーん……」

 遠慮なくボードの出来に対して指摘事項を挙げていく華凛の調子に、慧は相槌を打つ事しか出来ない。

 慧の歯切れが悪いのは、このボードの作成者が部長である天宮捺である為だった。先輩の成果物に対して慧は文句が言いづらくあった。

 部室に着くなり慧と共にボードを渡された華凛も作成者が捺である事は把握しているはずなのだが、これに関しては本人がいないとなればあまり関係ないらしい。

「そもそも、この時期に入部希望なんているわけないのよね。本当にやる気があるんならもう入部してるはずだもの」

「そ、それは、確かに……」

 華凛の言う事は一理あった。

 夏の大会において香椎東高校は初戦敗退を喫した。その為に三年生が引退し部員が足りなくなっている、という状況が発生している。

 それを打破するべく、毎日放課後の練習開始前に十五分間の部員勧誘活動を行うという方針が決定された。活動に使用するボードとセットで二人にそれが伝えられたのはつい先程の事である。

 しかし現在は、新入生が入学して三ヶ月程が経過している。この時期となれば一年生は既に他の部活に入部しているか帰宅部であるかのどちらか、と考えるのが一般的だ。

「……まあいいわ。考えても仕方ないし」

 廊下を歩く生徒達を見て、華凛が言う。

「とりあえず慧、ちょっとアピールして来て」

「えっ!? そ、それってどういう……」

「入ってくれそうな人を掴まえて直接勧誘するの」

「む、無理だよ、はずかしい……」

 あまりの無理難題に、普段は頼まれ事を断れない性分の慧も全力で拒否する。

「そ、それに、アピールなら華凛ちゃんがやった方が効果あるんじゃ……」

「えっ、そうかしら」

 予想していない返しだったのか、華凛はきょとんとしている。

「別にやってもいいけど……それならちゃんとした人に声を掛けないと駄目ね……」

 そう言うなり下校する生徒達を真剣な表情で見据える。その意外と乗り気な反応に今度は慧が驚く。

「か、華凛ちゃん……平気なの……?」

「ん、何が?」

「だって、知らない人にいきなり話し掛けるって……怖いっていうか……」

「平気よ、ただ参加意志を尋ねるだけなんだから」

「すごいね……さすが、華凛ちゃん……!」

「そ、そんな大袈裟なもんじゃないわよ……」

 その逞しさに感嘆した慧のリアクションに、華凛は少々照れた様子を見せる。

「……でも」

 すかさず表情を切り替え、周りを見回しながら華凛が漏らした。

「今日はあまり良さそうな人がいないわね。もう時間だし、今日は引き揚げましょう」

「あっ……そうだね」

 部員勧誘のリミットである十五分が間もなく経過しようとしていた。練習に参加するため、二人はその場を後にした。


「……これ、いつまで続くんだろう」

「簡単には終わらないでしょうね」

「だよね……」

「まあでも、こっちから動けばきっと良い出会いがあるでしょう」

「そ、そだね……」

 楽観的な華凛の態度にヒヤヒヤする慧だが、そのおおらかさにどこか安心もする。華凛が大丈夫と言うなら、きっと大丈夫なんだろうと思わせる雰囲気があった。

 ――ああ、でも……。

 直後、安堵した慧の脳内に別の問題が横からやって来た。

 ――練習、やだなあ……。

 慧は慧で、億劫がる自らの気持ちとの戦いを続けていた。

20151012

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