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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
187/227

登場

「いけー、華凛ー、スタンド入れちゃってー!」

 直子がベンチから無理難題を押しつける。その声が届いたかどうかは定かではないが、華凛はバットを真上に高く掲げてから構え直した。

 周囲に風でも舞いそうなその佇まいに思わず見とれてしまう。しかし、今は出来るだけ多くの声援を送らねばならない。声を振り絞っていると、相手投手は悠長に腕をぐるりと一度回し、それから投球動作に入った。

「華凛ちゃん、打って……!」

 ベンチから声を投げるように届ける。初球の判定はボールだった。熱くなるベンチをよそに、華凛は冷静に見逃していた。

 ナイス選球――そう声を掛けようとしたが喉が詰まり言葉にならない。慧は少し深呼吸をしてから、応援を続行した。

 二球目、これもボール。一球ごとに会場がどよめく。ベンチから首を出すと、スタンドからの声援が想像以上に聞こえるのが分かった。

「華凛、一球見て良いよ!」

 直子がアドバイスのような声援を送った。恐らく、相手投手の制球が定まっていないのを見抜き、このまま行けば四球を取れるかも知れないと考えたのだろう。

 慧もそれは名案だと思った。労せず塁に出られるなら儲けものだ。直子に続いて声を掛けようとしたその時、「ナイスバッティング!」と会場がまた沸いた。華凛が痛烈なゴロで三遊間を破ったのだ。

「おおー、やるねえ」

「凄い。鋭い当たりね」

 直子と捺が同時に感想を漏らした。

 先輩達さえも驚くような頼もしい存在。華凛がせめて同級生で良かった、と慧は思った。いやしかし、華凛が先輩ならそもそも自分に目をつけなかったのでは。妙なところに思考が行き、あれこれ考えなおす。

「タイム!」

 その時、球審がコールを掛けた。和白の内野陣がマウンドに集まる。

「おっ、作戦会議かい? 良い感じに焦ってるねえ」

 直子が満足気に言う。しかし、捺がその言葉を遮った。

「いや、あれはタイムというより……やっぱりね。出て来たわ」

「なんだって?」

 直子は驚いたようにグラウンドに注目する。捺はじっとマウンドの方を睨んでいた。

『ピッチャー、金城さんに代わりまして、村田さん』

 球場全体にアナウンスが響き渡る。

「あれが和白の本当のエース、村田えりか……昨日ぶりね。今日も出て来るだろうとは思ったけど、予想以上に早かったわね」

 捺が声のトーンを落として言った。直子が、千春が、ベンチの全員が真剣な表情になった。

 慧は昨日の準決勝を思い出した。確かに投げていたのはあのピッチャー。あの天神商業打線を手こずらせていた危険な投手。そして最も慧の印象に残っていたのは、左投げという特徴だった。

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