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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
183/227

苦境

 ワンアウト、ランナー二塁。

 一点を失いなお続くピンチで、四番バッターが左打席に入る。

「や、やばい、また左だ……」

 慧は直子をチラリと見る。後ろに下がりたいという思いが通じたか、直子は慧に下がるよう指示してきた。

 長戸という四番バッターは、打席に入るや否やキャンセルするようにすぐに外して、素振りを数回繰り返す。

 とても女子高生とは思えない鋭さを持ったスイング。芯に当たればどこまでも飛んでいきそうだった。

 慧は梓の投球開始を待たずに構え、打球に備えることにした。いくら底抜けに明るい香椎東の面々でも、これ以上離されたらどうなるか分からない。自分に何が出来るかは分からないが、せめてマイナスとなるようなことは避けねばならない。

 あれこれ考えていると、強烈なスイングが梓の精密なボールを捉えた。

「やばっ……!」

 反射的にファールゾーン側へと体が動く。一塁線を鋭く破るだろうと思われたその打球はしかし、華凛のダイビングキャッチによって行く手を阻まれた。

 慧は無意識に短く息を吐いた。あまりに美しく、状況から考えても見事というほかないプレー。華凛は余韻に浸るでもなくすぐに立ち上がり、二塁ランナーを目線で牽制する。

「ナイスキャッチ、華凛!」

 ナインが次々に声を上げた。何となくだが、その声には安堵の感情が含まれているような気がした。

「オッケー、ツーアウト、ツーアウト!」

 内野陣がお互いに確認し合った後、外野に呼び掛ける。慧も手を上げ応えた。あと一人アウトに取れば、とりあえず和白の攻撃は終わる。

『五番、ライト、坂田さん』

 アナウンスと共に打席に入ったその選手は、右打者だった。スタメンに僅かしかいない右を貫いたバッター。慧は思わず身震いするが、梓はそんなの関係ないと言わんばかりに第一球を投じる。

 直後、先ほどの四番バッターと遜色のない豪快なスイングでボールは弾かれた。打球はどんどん速度を上げ、左中間へ伸びていく。慧はボールを目で追いながら、左中間方向へ動いた。鼓動が高鳴るのが分かる。これは、まずい。

「直子、お願い!」

 その時、恐らく捺のものであろう声が慧の耳に届いた。見ると直子が一直線に、まるで落下地点が分かっているかのようにボールを見ずに迷いなく左中間最深部を目指していた。

「き……ったあ!」

 直子は背走しながらジャンプし、打球を見事グラブに収めた。追加点を防ぐ大ファインプレー。

「す、すごい……すごい!」

 慧は誰にともなく叫んだ。華凛が、直子が見せたプレーは、香椎東がまだ全然びくともしていないことを示すには充分だと思った。

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