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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
182/227

努力の結晶と天然もの

 ボールは流し打ちとは思えないスピードでグングン進む。

 決死のダイビングを見せる文乃のグラブをあざ笑うようにすり抜け、それはライトまでやって来た。

 慧は金縛りにあったようにその場を動けない。しかし、前に出なければならないことは本能が告げていた。

「い、行けっ……!」

 一歩、二歩、少しずつ前に進み高速で迫るボールを迎える。いよいよ目前に迫ったボールに対してこわごわグラブを差し出すと、どうにかそれはグラブに収まってくれた。

「けいちゃん、ちょうだい!」

 その時、既に起き上がっていた中継役の文乃がボールを要求してきた。その声を聞いて、慧はすかさず文乃へ返球する。相変わらず、自分でも驚くほど弱いボールだった。

「ナイスバッティングー!」

 和白に向けた歓声が上がる。今の当たりで一塁ランナーの亜希乃は一気に三塁を陥れていた。これで和白は一二番による連打でノーアウトにしてランナー一三塁という得点機を迎えたことになる。

『三番、サード、工藤さん』

 アナウンスと共に三番バッターが打席に入る。左バッターだ。慧は下がりながら直前の二番バッターの打球を思い出していた。

 香椎東では千春や文乃が流し打ちを得意としているが、そんな優秀な先輩方でも放ったことのないような鋭い当たりだった。まるで左バッターが引っ張ったかのような打球の勢い。スタンドの観客から見ればただのライト前ヒットかも知れないが、実際にそれを受ける身からすればこれほどとんでもない仕事はなかった。とてもボールに突進して一塁ランナーが三塁に行くのを防止することなど出来っこなかった。

 これが、強豪和白において右打席を貫き通した純度百パーセントの天然もの。あの打球をまた想像で蘇らせ、慧は思わず震え上がった。

 しかし、今は目の前の打者に集中しなければならない。今度は左バッターだから厳しい矯正を努力で乗り越えてきたバッターということになる。ましてや三番を任されるほどの打者だ。引っ張られでもしたら最悪トンネルだって有り得る。

 梓の投球動作に合わせて慧は腰を落とす。すると、三番バッターは打ちに行くと見せかけバットを水平に構えた。

「す、スクイズ……!」

 慧は短く叫び、反射的に一塁のカバーに走った。投じられたボールは水平に構えられたバットに見事に威力を吸収され、梓と豊と千春のちょうど中間に転がった。

「ファースト、ファースト!」

 内野から捺が、外野から直子が指示の声を飛ばす。最終的に捕球した千春は指示通りファーストに投げ、打者走者をアウトにした。

「そんな……また一点……」

 ただ打つだけじゃない。あまりに効率の良い加点に慧はめまいを覚えた。

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