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ハードシップメークス  作者: 小走煌
13 夏の大会、決勝
173/227

試合直前

「さあ、やって来ました決勝戦!」

 球場の外壁、ベンチへ続く通路の入口で捺が右腕を大きく振り上げる。

「オイ、良いのかよそんなノリで」

「緊張感がありませんね」

 清と千春が呆れ顔で溜め息をつく。

「まあ、良いんじゃないかね? ウチららしいっつうかさ」

「そうだね。下手に緊張してるよりは、良いかも……」

 直子と文乃は捺のテンションに賛成のようだ。

 決勝戦当日。慧には皆どこかリラックスしている風に見えた。捺や直子が楽しいやり取りをしている光景を見て思わず嬉しくなる。今日はこの空気を望んでいた。プレッシャーに押し潰されるような雰囲気ではなく、和気あいあいとしたこの空気を。

「大丈夫? 寝不足の人いない?」

 捺の確認に皆は首を横に振った。

「それなら良しとします。ベンチで寝てしまっては大変ですからね」

「そんなヤツいるわけないじゃない。アホじゃないの?」

 不意に、聞き慣れない声が届く。

「……悠莉」

 捺の視線の先には、天神商業のエースナンバーにして捺と直子の戦友である悠莉が立っていた。

「全く、ハッパの一つでもかけようと思って来てみたら案の定だわ。アンタたち、ちょっとダラダラしすぎなのよ」

「まあ、そう目くじらを立てないの。それが私達の良いところだわ」

「良く言うわ。今からアンタたちが戦うのは決勝なんだからね。全県のナンバーワンがここで決まるの。アンタたちは今まで散っていった子たちの気持ちまで思って戦うべきなのよ」

 悠莉は少し息を吸い込み、香椎東の面々を見回して言った。

「……とにかく、勝ちなさいよ。負けたら承知しないんだからね!」

 悠莉はもう一度全員を見てから、さっさとスタンドへの階段を登って行ってしまった。場に残された皆はしばらく何も言うことが出来なかった。

「嬉しいもんだね。こうやって来てくれるのは、さ」

 直子が感慨深げに言った。

 今まで負けた学校の気持ちを背負う、というフレーズに慧は体が固くなる感じを覚えたが、少なくとも捺と直子は嬉しかったに違いない。天神商業は香椎東に勝って欲しいのだ。

「そうね。あの子の分までいっちょ頑張りますか……ん?」

 捺は何かに気づいたようにエナメルバッグを担ごうとした動きを止める。慧が振り向くと、遠くの方に二人の人影が立っていてこちらを見ていた。

 二人とも夏らしく涼しげな恰好で、背丈の小さな少女がこちらへ申し訳なさそうに一礼した。続けて、背丈の大きな少女は被っている帽子を左手で取って、深く一礼する。

「あ、あれは……」

 その時、慧にも分かった。その二人は柳川女子の姉妹バッテリー、玲央と蘭奈だった。玲央が頭を上げたところで二人も悠莉同様スタンドの方へ向かった。

「……今日は観客が多いみたいね」

 捺はボソッと呟き、溜め息を漏らす。またも場に沈黙が訪れた。

「……行きましょう。私達は勝たなければならない……いえ、勝ちます」

 静寂を破ったのは華凛の力強い声だった。

「うん……そうね。じゃあ気を取り直して、行きますか!」

 捺が通路の扉を開き、先陣を切って入っていく。皆それに続いた。

 華凛の言葉をリフレインさせ、慧は歩いた。自分は自分で、今日、答えを見つける。そのための戦いがいよいよ始まる。鼓動が一つ高鳴った。

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