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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
170/227

緊張

 豊の声はまるで試合中かのように鋭いが、どこか心配するような気配を伴っていた。

 華凛は俯き、何かに迷っている素振りを見せたがやがてオレンジジュースのボタンを押し、一人で缶を開けて飲み出した。

「何でもない……って言いたいところだけど、良いわ。今少し高ぶってるのよね」

「なぜ?」

「次の試合、見ておきたい人がいるから」

「あっ……それってもしかして……」

 その言葉を聞いた時、慧は直感した。次の試合のカードは天神商業対和白。華凛が言うのは恐らく和白の――

「名嘉原、でしたっけ。伊勢崎サンのかつての戦友っすね」

 慧が言おうとしたことを豊がそのまま口にした。華凛は無言で頷いた。

「あの子、この試合もきっと出て来る。天神商業は確かにとてつもない強さだけど、和白もチーム力は高い。どう転ぶか分からなくてちょっと上がってるのよ」

「そういうことっすか。それならさっさとスタンド行って席を取らなきゃならないっすね」

 そう言うなり豊は自分から釣銭を取り、すぐにジュースを買った。メロンソーダだ。

「ほら、若月サンも早く買うっすよ」

「う、うん……」

 急がなければならないことは分かる。しかし、こういう時すぐに決めきれない自分が恨めしい。オレンジジュースとメロンソーダとエナジードリンクの間を人差し指が彷徨う。人が買ったものを欲しくなる性質にも嫌気がさす。

「ああもう、もどかしいっすね。自分が買ってあげますよ」

「あっ、待って……!」

 豊が手を伸ばしてきたので反射的にボタンを押す。エナジードリンクだった。

「さっ、行きますよ」

 豊が先頭をスタスタと歩く。華凛がそれに続いた。

「……まっ、いっか」

 慧はひんやりした缶と重いバットケースで両手をふさぎ、二人の後をゆっくりついていく。階段を上がると、やがてグラウンドが見えてきた。

「あっ、こっちこっち!」

 スタンドに出ると、既にバックネット裏に陣取っている捺が手を振って合図をくれた。

「どうしたの、遅かったわね」

「ちょっと下級生の遊びをしてただけっすよ。で、試合開始はまだっすか?」

「ちょうど今始まるところ。ナイスタイミングね」

 捺の声に、遅れてきた三人はグラウンドを見る。整列が終わり、後攻のチームが守備に散らばるところだった。

「いよいよね……」

 慧達の前に座る捺がポソリと呟く。マウンドを見ると、いつかの試合でホスト役を務めた悠莉が投球練習を行っていた。

 そうか、捺先輩と直子先輩にとってもこれは大事な一戦なんだ――慧は思わず息を呑み、グラウンドに注目した。

 和白の先頭バッターは名嘉原亜希乃。大観衆が見守る中、試合が始まった。

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