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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
168/227

疲れ果てて

 試合後の整列を終え荷物を片づけ、ベンチ裏の通路から球場の外に出ても慧はどこか夢心地だった。

 皆して球場外壁にもたれ掛かって腰掛ける。捺も直子も、千春も梓も文乃も清も、華凛も豊も糸が切れたようにぼーっとして、誰も何も言わない。そっと顔を覗いてみると、皆一様に遠い目をしていた。

 思い返せば壮絶な戦いだった。色んなことがあって上手くまとめられない。沈黙が続くのは当然かも知れない。

 涼やかな風が吹いた。日陰にいるとまるでクーラーの効いた部屋に入ったような気持ち良さを伴う。あまりの涼しさに一つ息を吐くと「終わったな」という呟きが聞こえてきた。清だった。

「終わったね……」

「終わりましたね」

 文乃が、千春が清の一言に同調した。

 そう、終わったのだ。試合は終わった。しかも香椎東の勝利で。頭で考えても得られなかった実感というものが慧の中に次第に湧いてきた。

「……と、いうことは」

 その時「終わった」以外の声がぼそりと聞こえてきた。

「祝! 決勝進出!」

 捺が勢い良く立ち上がり、皆の方を向いて声高らかに宣言した。その横から「信じられねー」と清の声が続く。それから「危なかったねえ」「どうにか逃げ切れましたね」などと思い思いの感想が漏れ出した。

 弛緩した空気。試合が終わったこの時こそ究極のリラックスタイム。チームが勝ったというのならなおさらだ。慧は何も言わずに皆の様子を見ていた。楽しそうに話す皆を見てホッとして、なんで自分はホッとしているんだろうと心の中で突っ込みを入れる。

「向こうさんのエースが出てきた時はどうなるかと思ったけど、まあ、粘り勝ちね。そこはこの部長である私の采配といって良いかしらね」

「調子に乗るのは良くないですよ、捺」

 おどける捺に指摘を入れる千春もどこか声が上ずっている。先輩達はまるで夏休み初日を迎えた子供のような笑顔を見せていた。それも当然だろう。最後の夏、こうして決勝まで勝ち上がっているのだから。思い返せば九人ギリギリの人数、春の大会に至っては出場すらしていない学校がここまで来ているとはなんというダークホースぶりだ、と慧は思わず座っているのに目が回りそうになった。

「ところで!」

 不意に、賑やかな雰囲気を捺の声が制した。

「今日、この球場ではもう一試合あります。この試合の勝者が私達の決勝の相手ということになります。私は観戦して行こうと思いますが、今日は死闘だったため、ここで解散するのもありとします」

 捺の呼び掛けに、清がサッと手を挙げる。

「言う通り今日はもうダルいからパス……と言いたいところだけどよ、決勝行けるんでテンション上がっちまってるんだ。俺は見るぜ」

 周りの皆も次々に賛成の意を示した。こんな状況で帰るなどと言えるわけもない。慧も皆に合わせ一つ頷いた。

「おっけー、それなら皆で見ましょうか」

 捺は試合中の疲れも吹き飛んだのか、踊るように外階段へ向かう。その後に三年生メンバーが続き、二年生トリオは最後尾となった。バットやヘルメットなど、部で共有する荷物は全員で分担して持って歩く。

 歩きながら俯く。皆と試合を見ること自体は苦ではないが、とにかく荷物が重い。バットケースを引きずりそうになりながらフラフラと歩く。

「……そうだ」

 ふと、華凛が呟いた。

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