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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
163/227

香椎東対柳川女子:夏46

 改めて慧はライトから状況を確認する。

 ノーアウト、ランナー一二塁。打席にはこの試合散々苦しめられてきた蘭奈が入った。何やら目の辺りをしきりに拭っている。

 不思議に思いながらも、慧は蘭奈のこれまでの打席を思い出した。左へ右へ、センターへ、いずれも痛烈な打球を飛ばされた。塁に出れば巧みな走塁で次の塁をもぎ取る。間違いなく柳川女子の打線において最も注意すべき人物で、この打席は特に警戒が必要だろう。

 しかし厄介なのは塁が埋まっていることだ、と慧は思った。仮に敬遠でもすればランナーがそれぞれ進んで満塁になってしまう。次の四番バッターもこの試合では得点に絡む働きを見せているだけに、ここは蘭奈で勝負せざるを得ない。

「先輩……大丈夫かな……」

 慧はマウンドに立つ梓のことを想った。直子もその無尽蔵の体力に限界が来ている可能性を指摘していた。この打席、百パーセントの力で立ち向かわなければならない状況。もう限界なら、痛打を許してしまうかも知れない。梓はいつものように淡々と、セットポジションから第一球を放った。

「ストライク!」

 慧は目を見開いた。こんなに離れていても、今のボールがこれまでで最も力強いボールだということが分かった。どうやら心配は杞憂、ここに来て梓もギアを上げたようだった。

「さあ来い、さあ来い!」

 香椎東ナインは声で梓を鼓舞する。慧もその輪に加わり、全力で声を出した。梓先輩、負けるな――

 次の瞬間。

 蘭奈は二球目をスイングした。一閃。慧はすかさずボールの行方を目で追った。

 今まで追い込まれるまで手を出さなかったのにどうして――一瞬そんなことを思ったが、それと同時にボールの行く先が分かった。梓の横をライナーで抜けワンバウンドし、二塁ベースの横を通過しようとしている。

 このままではセンターに抜ける。しかしそれは先ほどの直子の読みが当たったことを意味した。後は直子の送球までの早さと肩と、二塁ランナーの走力の争い。

 そう思った次の瞬間、捺がボールを行かせるまいと飛び込んだ。決死のダイビング。ボールは見事捺のグラブに収まった。慧はその光景が信じられなかった。まさかあの打球に間に合うとは、いや、元からそういうポジショニングを取っていたに違いない。捺はたまに直感を働かせて大胆なポジショニングをすることがある。それが嵌ったのだ。

 捺はダイビングから倒れ込んだ状態のまま、セカンドベースのカバーに入っていた文乃にグラブを嵌めた左手でトス。ここでワンアウトとなった。文乃は間を置かずに一塁へ送球。これはセーフ。華凛が三塁に到達したランナーを牽制しながら、マウンドまで移動して梓に手渡しでボールを送った。

 色々なことが起き過ぎた。慧の頭はパニック状態になった。しかし「ケイちゃん、バック!」という直子の指示の声で我に返り、下がりながら落ち着いて状況を確認する。

 ワンアウト、ランナー一三塁。捺のとんでもないファインプレーで一塁ランナーをアウトにすることが出来たが、蘭奈は生き残ってしまった。セットポジションに入り、顎を引いて牽制する梓が気にならないというように大きくリードを取る。それはまるで、いつでも盗塁出来るというサインのように思えた。

 梓は牽制球を投げるまではせず、四番打者へ第一球を投じた。

「……走った!」

 瞬間、慧は声を上げていた。投球と同時に蘭奈がスタートを切る姿が見えたのだ。

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