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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
162/227

香椎東対柳川女子:夏45

 その時慧の目に飛び込んだのは、豊が立ち上がってマウンドへ向かう姿だった。続いて内野陣がマウンドへ集まる。この大ピンチのタイミングで香椎東にタイムが掛けられたのだ。

「ケイちゃーん!」

 直後、直子の声が届いてくる。呼ばれるままにセンターの位置まで移動した。

「ケイちゃん良かったよ、実に落ち着いていた。この調子だ。ゴールデングラブまでの道のりは遠くて近いよ」

「あっ……あ、ありがとうございます……」

 独特の言い回しだが、先ほどの守備を褒められるなどとは思っていなかったため、つい俯いてしまう。

「おい、来たぞ」

 その時、レフトから清がやって来た。タイムを利用した外野陣の緊急ミーティングだ。二人を招集した張本人の直子は、視線を浴びるや否や両手を腰に当ててポーズを取った。

「さあ、いよいよマズい状況だねえこれは」

「テメー、よく呑気でいられるな」

 清はいつもと変わらない様子の直子を睨みつける。

「まあまあ、こういう時は焦った方の負けなのよ。ねえケイちゃん」

「え、えっ……?」

 急に話を振るのが直子の特徴、とは理解していたつもりだが対応するのは難しかった。言葉を発せずにいると、直子は腕を組んで唸り出した。

「それはそうと、ポジショニングをどうするか迷うんだよねえ」

「前進で良いんじゃねえか? 今までの打席からして、外野の間を抜けることはあっても頭を越えるような長打はねえだろ」

「分かんないよ。多分、配球とコース次第じゃそういう打球もあり得る。今は梓も限界が近そうだし」

 その意見に、慧はもっともだと思った。蘭奈の危険性はもう十分過ぎるほど実感している。それに、梓の体力も心配だ。

「若月、オマエはどう思う」

「えっ……あっ……」

 言えない。自分の意見は直子と同じ、つまり清の意見とは異なるのだ。そんなこと言えない。もしも言ったら清は途端に怖い顔になり、内野まで聞こえるほどの大声で当たり散らしてくるだろう。

「あ、あの……その……」

「テメー、はっきりしやがれ!」

 清の怒鳴り声が円陣を支配する。ああ、結局怒られたよ――慧は泣きだしたくなるのを堪え、なおも言葉を探す。

「まあまあ、良いじゃないの。そんでもって決めたよ」

「なに?」

 直子は睨みつける清と目を合わせた。

「前進にしよう。頭を越えられたら痛いのは確かだけど、今は一点でもやりたくない。あのピッチャーがいつまで投げられるか分からないけど、体力を消耗している梓とまだ出てきたばっかりのあの怪物を比べた時に、もしかしたら先に梓がまいっちまうかも知れない。それならもう、一点もやれないしやらない」

 直子の意見に、清は異論を挟まなかった。円陣に静寂が訪れる。

「ケイちゃんも、それで良いかな?」

「はっ、はい……」

 しっかり考えられたその意見に、慧も異論はなかった。その時、内野陣が解散した。ミーティングが終わったのだ。

「おっ、休憩終わったみたいだ。ウチらも戻るとしますか」

「おい、内野のあれは休憩なのかよ……」

「へへっ、まあ本当は違うけど似たようなもんでしょ」

 直子は舌を出して二人を自分のテリトリーから追い出すような仕草を見せた。慧は焦って自分の持ち場であるライトへと戻る。

 戻りながら慧はつい笑みをこぼしてしまった。決める時は決める。ふとした時に見せるこのリーダーシップは、気づく人しか気づかない直子の隠れたチャームポイントだ。

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