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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
161/227

香椎東対柳川女子:夏44

 皆ベンチを出て、それぞれの持ち場につく。ボール回しを終えると八回の裏が始まった。

 梓は相変わらずのハイテンポでどんどんボールを投げる。ワンストライク、ワンボール、ツーストライク。たった三球で追い込んだ。三番の蘭奈に回ってくるこの回、その前にランナーは出したくないがこの様子なら心配なさそうだ。それにしてもここに来てボールが衰えず、どんどんストライクを取れる梓の凄まじさ。慧がその体力と胆力に溜め息をついたその時。

「サード!」

 梓の四球目は芯で捉えられ三塁線を逸れるファールとされた。逆だったら危なかった――慧は思わず肝を冷やす。しかし遠くから見る梓は動じる気配もない。立て続けに五球目を投じる。またも鋭い当たりのファールとなった。

 不意に、慧の中に嫌な感じが押し寄せる。衰えていないように見える梓の球は、もしかして、失速している――?

「文乃! お願い!」

 直後、セカンドの横を鋭いゴロが突破しようとする。文乃が懸命に追うが、僅かに届かない。センターに抜けるヒットとなった。

 ノーアウト、ランナー一塁。香椎東の面々は次々に声を掛け合い、状況を確認する。内野ゴロならきっとゲッツーを狙うだろう。香椎東の内野陣は鉄壁だ。一方、外野陣は長打を警戒するために定位置よりも後方へ位置取った。

「さあ来い、さあ来い!」

 ナインが皆で声を出す。慧もその輪に入ろうと、小さな声を振り絞る。そんな中、柳川女子の二番バッターはバントの構えを見せた。

「バント警戒!」

 直子が内野に注意を促す。直後投じられた梓のボールに、バッターはバットを引いた。ストライク。

「ナイスボール!」

 バントを警戒してチャージを掛けた華凛と千春が、グラブを叩きながら梓を讃える。ライトから見ても見事なチャージング。これなら簡単にバントは出来ないだろう。しかしそれでもバッターはバントの構えを見せた。

 梓の第二球。次の瞬間、バッターはバットを引いてヒッティングに切り替えた。ギン、と鈍い音を立て、打球はフラフラと慧の前に上がる。

「ライト!」

 内野陣から声が上がる。来た。一瞬の緊張を振り切り慧は前に駆け出した。しかし、後退していたこともあって間に合わない。結果、ワンバウンドで捕球することになった。

「お願いします……!」

 慧は捕球しすかさず文乃にボールを送った。文乃は振り向きざまランナーを牽制する。一塁ランナーは二塁でストップした。

 会場が大きくどよめいた。ノーアウト、ランナー一二塁。柳川女子にとってまたとない逆転のチャンス。しかもバッターは三番、この試合全打席で安打を放っている蘭奈だからに違いなかった。

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