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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
160/227

香椎東対柳川女子:夏43

「華凛、惜しかったわね」

 ベンチへ帰ってきた華凛を捺が迎え入れた。

「ファールは偶然でした。完全に力負けです」

 華凛はバットを仕舞い、ヘルメットを脱いだ。その様子からは悔しさは感じられない、と慧は思った。真正面からの真剣勝負の果て、すっきりした気持ちなのだろうか。

「慧」

 ふと、片づけを終えた華凛がこちらを見てきた。

「ごめんね、期待に応えられなかったわ」

「う、ううん、相変わらずすごいボールだね……」

 慧は華凛を空振り三振に切って取った球を思い出していた。鉛がまるでピンポン玉みたいな身軽さで飛んでくるかのような直球。打席で見たならきっと浮いて見えるのではないだろうか。いや、そもそも見えないかも知れない。

「なんとなくだけど、秋の大会にはない凄味があるわ。彼女にとっては最後の夏だから当然といえば当然かも知れないけど」

「それ、私も感じたわ」

 慧と華凛の間に入ったのは捺だった。帽子を被り直し、グラウンドを見つめる。

「私もこれで最後だから気持ちは分かるんだけど、多分それだけじゃないわ。恐らくケガしている肩との戦い。あと何球もつのか分からない中で、きっと極限状態になっているんだわ」

 グラウンドでは清が空振り三振に倒れたところだった。入れ替わりで文乃がトボトボと打席に向かっていく。

「ともかく、彼女が出てきた以上得点は望めなさそうね。残り二イニング、今まで通りしっかり守っていきましょう」

「そうですね。しかし次の回はあのキャッチャーに打席が回ってきます。要注意ですね」

「そうなのよ。ランナーが出てなければ最悪敬遠しても良いと思うわ。問題は前の回みたくランナーがいる状況で回ってきた時ね。攻め方としては……」

 捺と華凛はあくまで次へと意識を切り替えている。慧も同じように次の守備のことを考えなければ、と思った。

 しかし、慧は玲央から視線を外せずにいた。玲央は文乃もあっという間に追い込んでいる。

 慧の見る限り、玲央は未だ変化球を使っていない。直球オンリーであれば、捺や華凛なら前に飛ばせたかも知れない。それでも玲央は香椎東の誇るクリーンアップを直球一本で抑え込んだ。

 それはなぜか、きっと、玲央が今最後の輝きを放っているからだろう、と慧は直感した。後戻りのない高校生活、悲鳴を上げ続けいつ完全に機能停止に陥るか分からない肩。そのスレスレの状況を懸命に戦っているからこそ玲央は今輝いて、誰をも寄せつけない圧倒的な力を見せつけているのだろう、と思った。

 やがて文乃も三振に倒れる。八回表の香椎東の攻撃は終了した。

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