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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
156/227

香椎東対柳川女子:夏39

 玲央はゆっくりとした歩みで、やがて内野陣の集まるマウンドまで辿り着いた。その左手にはグラブを嵌めている。

「姉さん、だめです!」

 悲鳴のようにも聞こえる蘭奈の声が、慧のいる二塁ベースまで届く。

「姉さんは投げてはいけない。ここはわたしたちに任せて、姉さんはベンチで見守っていてください!」

 玲央はケガで投げられない、と試合が始まる時捺は言った。それが本当なら、玲央はこの場に出て来られるはずがない。しかし、今玲央はグラウンドに姿を現した。無言で自らにボールを渡すよう要求している。

「姉さん、どうか、わたしたちのためだと思って、ここは退いて頂けませんか……!」

 蘭奈はなおも訴えを止めない。しかし、玲央は頑としてその場を離れようとせず、やがて三番手投手からボールを受け取った。

「ま、まじか……まさか本当に……?」

 直子の震えた声が一塁ベースから聞こえてくる。玲央はこの試合に出場する気でいるのか。やがて玲央と蘭奈は、マウンド上で正面に向き合った。

「姉さん、お願い……!」

 蘭奈の悲痛な叫びは、玲央のたった一言によって止められた。

「投げなければならない。この私が」

 玲央の声は大声ではなかったが、慧の位置までよく聞こえた。そしてその声に、慧は肩を震わせた。誰の意見をも説き伏せる圧がそこにはあった。

 蘭奈は震えながらも観念したようにゆっくりマスクを被り、定位置へ戻っていく。他のメンバーも一様に自らのポジションへと戻った。やがて球審の宣告により、試合が再開された。

 しかし玲央は果たして投げられるのか。ケガをしているのなら少なくとも以前のような剛球は影をひそめるはず。もしかしたら自分がヒットに出来たあの球のような弱い威力のボールしか投げられないのでは、と慧は思った。もしそうなら、千春なら楽にヒットに出来るはずだ。いずれにしても追加点はもう目の前と言って良い。

 しかし。

 千春に投じられた一球を見た時、慧はこの場から一目散に逃げ出したくなった。

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