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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
155/227

香椎東対柳川女子:夏38

 しかし、上がった心拍数を元に戻すのは難しい。結果、慧は高鳴る鼓動をそのままに離塁することになった。

 ピッチャーが牽制球を投げてこないか慎重に窺いながら一歩、二歩塁を離れる。あくまで戻れる範囲内で、少しずつ離塁しながら考える。

 ワンアウト、ランナー一三塁。失点にますます近い状況にあるが、相手投手から焦りの色は見られない。捺は「浮き足立っている」と評していたが、その見立てが果たしてこの状況ではどう作用するだろう。相手投手は顎を引きこちらの動きを牽制してくるものの、牽制球を投げるには至らない。やがて投じた第一球は、外角高めに大きく外れたボールだった。

「オッケー、見てこー見てこー!」

 香椎東ベンチから声援が沸く。この球の外れ方は自分の時と同じ、慧はそう思った。

 それならば、次はストライクになるか。そう予想したがしかし、二球目はまたも外角に外れたボールとなった。蘭奈が苛立っているのが、その捕球の仕草から伝わってくる。

 もしかして、と慧は思った。捺の言うことは当たっていたのか。もしそうならフォアボールが狙えるはずだ。そんな中無機質に投じられた第三球はワンバウンドのボール。蘭奈が即座に反応しパスボールとはならなかったが、これはもうストライクの入る気配ではないというのは慧が見ても分かった。慧は牽制球で刺されて押せ押せムードに水を差さないよう安全策で最低限のリードだけを取り、その投球に注目する。ワンテンポ挟んで四球目が投じられたが、またもワンバウンドのボールとなった。

「ナイス選球!」

 香椎東ベンチから一層大きな声が届く。ワンアウト満塁、大きな大きな得点チャンスとなった。

「ケイちゃん、外野のポジション確認!」

 一塁ベースに到達したばかりの直子から早速指示の声が飛んできた。慧は直子に一礼し、外野を見回す。

 二塁ランナーはあらかじめ外野の位置を確認しておき、打球の質で本塁へ突入するか三塁でストップするかを決めるという。練習でレクチャーを受けたことはあったが、二塁ランナーの位置で実際に相手のポジションを確認するのは初めてだ。当たっているか不安になるが、慧の見立てではライトがやや前進、センターとレフトは定位置、といったところだった。

「う、うそだろ……!」

 ふと、何かに驚く直子の声が聞こえてきた。それと同時に、セカンドとショートがマウンドへ向かう気配がする。

 何事かと思い振り返ると、どうやらタイムがかかったようだった。慧の目には、マウンド上に集まる内野陣が映った。その中央にいる蘭奈は、なぜか明らかにうろたえている。

 いったいどうしたんだろう――不穏な空気を覚えたその時、柳川女子ベンチから人影が現れ、ゆっくりとマウンドへ向かうのが見えた。

「あっ……!」

 その姿は慧にも見覚えがある。それは紛れもなく、柳川女子の絶対エース、鍛治舎玲央の姿だった。

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