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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
153/227

香椎東対柳川女子:夏36

「はい!」

 慌てて打球を目で追う慧の耳に文乃本人の声が聞こえてきた。

 慧が見つけたのは、球足速く地を這うゴロ。このまま立っていれば寸分の狂いなくライトまで到達するであろうそれを、文乃が無駄のないステップで回り込んで丁寧にグラブに収める。

 かと思えば、文乃はそこから間髪入れず体を反転させ二塁へ送球した。ベースカバーに入った捺がそれを受け取り流れるように一塁へ送球、ダブルプレーとなった。

「よっしゃー、ナイス守備!」

 センターから直子が人差し指と小指を立てて内野へ声を掛ける。皆同じようにツーアウトであることを確認し合った。

 良かった――慧は心の中で溜め息をついた。もし打球がゴロでなくフライやライナーだったら危なかった。改めて、これは大事な試合であるということを認識した。他のことに気を取られていてはいけない。

 とにもかくにも慧は状況を再確認する。ツーアウト、ランナー三塁。バッターは六番。外野としては、確実に捕球することが第一。急いで送球する必要は特にない。

「ってことで、良いんだよね……」

 頭の中で考えながら不安になる。直子や華凛にレクチャーして欲しい。野球は状況が目まぐるしく変わって難しい。遠くに離れていてもテレパシーか何かで意思疎通が出来れば良いのに――というところまで来て考えを強引にストップした。これではさっきと同じ轍を踏んでしまう。目の前の相手に集中しなくては。

 腰を落として打球に備える。打席ではストライク、ボール、そしてまたストライクが取られた。一呼吸置いて梓の投じた四球目は、ストライク。最後は六番バッターのスイングが空を切り柳川女子の攻撃は終わった。

 慧は深く息を吐いてベンチへ戻る。蘭奈の手により一点が入り、四対三。残りイニングは七回、八回、九回の三つ。この試合、いよいよどうなるか分からないのではないか。

「慧、ちょっとおいで」

 その時、自らを呼ぶ声がして慧は顔を上げた。見れば捺がこちらに向かって手招きしている。他のメンバーは全員が既にベンチ前に集合しており、円陣を組んでいた。慧は慌てて足を速めベンチへ戻り輪の中に加わる。そのタイミングで捺が全員をゆっくり見回し、腕を組んだ。

「残り三回、点差は一点!」

 捺の言葉に、円陣内に緊張が走った気がした。

「あと少しで勝利に手が届くところまで来ています。それを確実なものにするためには、ここでもう一点欲しい」

 捺はまた、全員を見回した。慧は思わずつばを飲み込む。このイニングが、重要なポイントなのだ。

「あのピッチャー相手ならまだ得点出来ると見ています。狙い球をしっかり絞って、集中していきましょう」

 そう言って捺は円陣を解散させた。ベンチ内を「先頭出てこー!」「一点とろう!」といった声が満たした。

 あと三回――慧の心拍数は知らず上がっていった。

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