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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
152/227

香椎東対柳川女子:夏35

 未だノーアウトの状況で四番バッターを迎える。

 特にまずいのは、ランナーが二塁にいるということ。本塁上で行われたクロスプレーの間に出来た一瞬の隙を突いて、蘭奈は二塁を陥れていたのだ。直子の指示に従い前進守備を敷く慧は、どこまでも香椎東を苦しめてくる狡猾な蘭奈への恐怖と来るかもしれない打球への恐怖で頭がどうにかなりそうだった。今はまずい。少し休憩を入れないか。両軍とも、ベンチで一時休息して出直そう。そんな無為な妄想をしていたその時、会場がざわめいた。

「ん……?」

 それが何を意味するかは慧にもすぐに分かった。豊が立ち上がっている。これは敬遠の合図だ。

「そうか、一塁に人がいないから良いんだ……」

 柳川女子が捺を相手に見せたランナー一二塁の状況での四球と違い、これは至極まっとうな敬遠。要注意打者を回避するという香椎東バッテリーの安全策だ。

 しかし、慧の中に違和感があった。敬遠をするということは塁上にランナーが出るということであり、それは失点の機会を増やすということではないか。

 梓がゆっくりとしたボールを豊へ投げている間、慧は観客席に目をやった。この後の展開が楽しみだといった顔つきでグラウンドを注視する面々、敬遠のこのタイミングを小休止と言わんばかりに水を飲んだり会話をしたりする面々、そして熱狂の応援団。中にはこの暑さにすっかり参ったようで天を仰いでうちわを扇ぐ者もいた。

 観客は良い、と慧は思った。この先何が起きても純粋にその結果を楽しめる。当事者である自分達は一つ一つのプレーに細心の注意を払ってこなしていかなければならない。それがどれほど神経と精神をすり減らすか、きっと考えてはいないだろう。

「ケイちゃーん! やっぱり定位置に戻ろうー!」

 その時、遠くから直子の声がした。と同時に梓はボールを四回投げ終え、敬遠が成立した。

 指示に従い、定位置まで下がりながら状況を確認する。これでランナー一二塁。外野としてはとにかくどんなボールが来てもすぐに内野に返すことを意識してやれば良い。しかし内野はどうだろう。捕球したらどこに投げれば良いのか。ダブルプレーを狙うのか、それとも三塁送球か。または確実に一塁でアウトに取るのか。打球の質によっても選択肢は変わってくるだろう。考えていると頭がどんどん混乱してくる。

「うわあ……内野って大変……」

 慧は呟き、今度は地面の芝に目をやった。

「文乃! 行った!」

 その瞬間、指示の大声がライトまで届いてきた。慧はハッと顔を上げた。

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