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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
150/227

香椎東対柳川女子:夏33

「中継、中継!」

 捺が叫び、清からの返球を受け取る。しかしそのタイミングで、バッターランナーはスライディングにより二塁へ到達した。

 ツーベースヒット。ノーアウトの状況で、いきなり得点圏にランナーを背負ってしまう。

「いいよいいよ、次打ち取ろう!」

 捺はライトまで聞こえる声でチームを鼓舞する。その声につられて「ここ締めてこー!」「ランナー二塁!」といった大小様々な確認や決意の声が飛び交った。

 しかし、慧は思った。捺の言う「次」たるこの人物こそ、最も危険であると。

 慧はライトからバッターボックスを見やる。蘭奈はいつの間にかネクストバッターズサークルから左打席まで到達していて、だらりと垂らしたバットをゆっくりと持ち上げ、グリップを握る両の拳を首元と同じ高さで静止させた。その視線はやはり窺えないが、慧の頭には先ほどの不気味な口つきがフラッシュバックする。これほどの暑さの中にあって、思わず震えあがってしまう。

「ストライク!」

 しかし、その震えは球審のコールと高らかに鳴ったミットの音により止んだ。この雰囲気に怯えはないのか、梓が堂々とストライクを投じた。

「ナイスボール!」

「良い球行ってるよ!」

 香椎東ナインは、この暑さの中自らの体力減少などお構いなしと言わんばかりに大声を張り上げる。慧は一体誰に聞こえるのか分からないボリュームで「ナイスボール!」と声を掛け、思った。

 梓は疲れを知らないのか。汗を拭う様子もなければ、一呼吸置くこともない。淡々と、ただ淡々とサインを確認してはボールを投げるという作業を繰り返している。まさに無尽蔵のスタミナ。一回戦は体調を崩しノックアウト状態だったが、万全ならば体力勝負で敵はいないのでは、と思ってしまう。

「ストライク!」

 立て続けにストライクを奪った。早くも二つ目。これだ。梓の特徴はスタミナだけではない。普段は淡々と投げているが、ここ一番での威力あるボールは目を見張るものがあるのだ。これこそ普段の物静かな彼女からは考えられない強烈な二面性。

「だ、だめだ……」

 しかし慧は呟いてしまった。ヘルメットに隠れた蘭奈の顔は、追い込まれたこの状況でなお歪んだ笑みを形作っている気がどうしてもしてしまう。そんな慧の気持ちに呼応したわけではないだろうが、三球目は際どいコースを突いたもののボールとなった。

「オッケー、良いボール!」

「いいよ、厳しいとこ突いてこー!」

 ナインが梓を鼓舞する。梓は一人ではない。状況は香椎東の九人対蘭奈の一人といって良い。しかし、次の球もボール、その次の球もボールとなった。

「ふ、フルカウント……」

 ツーストライク、スリーボール。蘭奈に対しても圧倒的な投球を披露したように見えた梓だったが、勝負はどちらに転ぶか分からなくなった。

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