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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
148/227

香椎東対柳川女子:夏31

「文乃、ちょっとおいで!」

 不意に直子は、ネクストバッターズサークルからとぼとぼ打席へ向かおうとする文乃を呼び、自分はベンチから飛び出した。

「ど、どうしたの、早く行かないと……」

 怯えるようにそそくさと戻ってきた文乃は、まるで潜り込むように直子のそばまでやって来た。

「元気かい、最近の調子どう?」

 横で見ているだけの慧だったが、直後放たれた直子の言葉に思わず首が前に出てしまった。いったい何を言い出すのか、この人は。

「えっ、調子……はあんまり良くないかな。だってこれから大仕事しなきゃいけないし……」

「そうか。良いかい、幸運は寝ててもやってこないんだ。自ら飛び出して行かなきゃいけない。分かる?」

「い、いや、あんまり分からない……」

 文乃は直子の横で足踏みを繰り返していた。早く打席へ向かわないといけないという義務感の表れだろう。

「じゃあ早速行ってみよう。大丈夫、君の力は天にも届くさ。恐れず飛び出して行けば良い。それだけなのよ」

「う、うん、行くには行くけど……」

「あたしたちはやらなきゃいけない。例えそれがどんな相手でもね。つまりあれだ、飛び出して行くのさ」

「ま、まあ頑張るけど……結局何が言いたかったの……?」

「右だ」

 直子は突然鋭い声になった。その声に反応し、文乃も足踏みを止めた。

「文乃のテクがあれば、そしてこの相手ピッチャーなら、右打ちが上手くはまるはずだ。騙されたと思ってやってごらん。面白いように一二塁間を抜けて行く画が見えるよ」

「ほ、ほんとう……?」

「ああ、ほんとほんと。そりゃもう大船よ! さあ行っといで!」

「うう、めちゃめちゃ不安だよ……」

 文乃は震えた声ながら、先ほどよりもしっかりとした足取りで打席へ向かっていった。その様を球審が細い目で見ている。

「直子、アドバイスは良いことですがもっと要点を纏めなければいけませんね。文乃が可哀想です」

 ベンチに引っ込んだ直子に千春から指摘が入る。

「へへ、悪いね。でもまあ、文乃緊張してたみたいだし。これぐらいはしゃいだ方がちょうど良いと思ってさ」

「限度がありますよ、限度が」

「ぐぬぬ……良いじゃん、ねえケイちゃん!」

「え、えっ……!?」

 急に話を振られ、慧は答えることが出来ない。

「あ、あの、その……」

 何か言わなければ。せっかくの和やかな雰囲気が台無しになってしまう。

「そ、そうですね……」

 何も浮かばないが一言でも答えようと声を出したその時、心地良い打球音が鳴った。

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