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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
146/227

香椎東対柳川女子:夏29

 これでワンアウトランナー二塁、バッターは九番。

 慧は気が気でない思いで打球に備えて腰を落とした。

 何せ距離が近い。バッターに近いということは、その分打球のスピードが死なないということ。それは慧にとって恐怖以外の何物でもない。

 どうか来ませんように――そう願っていると、九番バッターが放った打球がピッチャーの横を抜けた。

「捺、間に合う!」

 直後、直子から声が飛んだ。そして外野に抜けようとしたボールは、その声通り捺がキャッチし即座に一塁へ転送された。

「アウト!」

 素晴らしい。打球が飛んだと同時に一塁のカバーへと走っていた慧は、役目を終え元の位置に戻りながら思った。ワンアウト目の華凛にツーアウト目の捺。香椎東の内野守備はまるで岩のように強固だ。

 半面、外野守備はライトに大穴が空いているためまるで難破船のよう。それでも航海出来ているのはきっとセンターの直子とレフトの清が必死に穴埋めしているからだろう。これは残り一つのアウトもどうか内野の方にお願いしたい、と慧は切に願った。

「ピッチャー!」

 瞬間、指示の声とそれを覆い隠す歓声がグラウンドを埋め尽くした。真っ直ぐ打ち返された超スピードの打球を、今度は抜かさない。梓が超反応のフィールディングで捕球し、ゆっくりと一塁へ送球。これでスリーアウトになった。

「やった、願い通りになったよ……」

 慧は小躍りしたくなるのを堪えベンチへと引き揚げる。五回の裏は、香椎東が岩の守りを見せつけ無失点という形になった。

「オッケー、良い守りだったわ!」

 ベンチでは捺が皆へ声を掛けつつ自らはヘルメットを被りバットを取り出していた。

「捺、一本頼みますよ」

 千春の声掛けに、捺は渋い顔を見せる。

「うーん……今日はずっとフォアボールだから分からないけど、まあ、打てそうだったら打つわ」

 まるで机の下の落とし物に手が届きそうで届かない時のようなすっきりしない返事をして捺はベンチを出ていった。

 六回の表、いよいよ試合は後半戦へと差し掛かる。四対二とリードは保っているものの、勝利のためにはここで追加点が欲しいところだ。

「捺、一本頼む!」

 ベンチから声援が飛び出す。慧はその喧騒を離れ、ベンチの奥側に一人腰掛けた。ふと、体が宙に浮いたような感覚に襲われる。そういえばさっきから打球を怖がらなかったりやっぱり怖がったりどこかおかしい。この暑さのせいだろうか。水分補給をしなければ。そう思い立って席を立ったその時。

「ボール、フォア!」

 球審が高らかに宣言した。またもストライクなしの四球。捺にこの日なんと三つ目となる四球が与えられた。

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