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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
145/227

香椎東対柳川女子:夏28

 五回裏の柳川女子の攻撃は、七番バッターから始まった。

「うーん……どうなるんだろう、この試合……」

 慧は一人、外野であるのを良いことにうんうんと唸っていた。不気味な相手キャッチャーの蘭奈に、俄然やる気の華凛。蘭奈の方はどうだか分からないが、慧が言われた棘のある言葉の数々を思い返すと恐らく好戦的のはず。

 かたや華凛は言わずもがな。もしも慧が言われたような屈辱的な言葉を華凛も掛けられたとしたら、あの挑発に乗りやすい華凛のこと、その時には乱闘騒ぎになるのではないか。

「いやいや、それは考え過ぎでしょ……」

 慧は独り言を続ける。さすがに良い大人、とも言い切れないが善悪の分別ある女子高生。そんなことにはならないだろうとは思うが、不安だ。

 というのも、蘭奈は何をしてくるか分からない。そんな難敵をどうにか退けないといけないのだ。とてもではないが、現在リードしている気分になれない。

 その時、キン、と慧にとって気持ちの悪い音がした。

「また来た、もう……!」

 打球は一塁線を鋭いゴロで破りライトまで転がってきた。今日は良くボールが飛んでくる。慧は急いで回り込み、もう何度目かの捕球、そして中継への送球をこなす。その間にバッターランナーは二塁へ到達した。

「ま、まずい……ランナー二塁だよ……」

 慧は少し身震いした。ランナー二塁の場合、ゴロが飛んできたら出来る限りのスピードでボールに向かい、すぐさま内野に返さなければならない。スピードと正確性が要求される、慧の苦手とするプレーなのだ。

「ケイー! ちょっと前ー!」

 すぐに直子から指示の声が飛んできた。慧は言われるがままに前進する。たちまち内野手、ピッチャー、そしてバッターが近く感じられた。

「ああ、まずい、まずいよまずいよ……」

 慧は直子に黙って元の位置まで下がってしまおうかと考えた。しかしそれはさすがに下がり過ぎで簡単にばれてしまう。少しだけ下がればチェックの目もごまかせるだろう。

「……ん?」

 もしかして戻ったか、と慧は思った。慧は今、単純にボールが怖い。それはつまり、いつもの自分だ。さっきまで忘れていた感覚を思い出したようで、怖いのについほっとしてしまう。

 次の瞬間、またも甲高い金属音が鳴った。

「慧!」

 香椎東ナインが慧を呼ぶ声とファーストの華凛が綺麗に横へ飛び、一二塁間に飛んだライナーのボールを掴むのはほとんど同時だった。

「やった……!」

 思わず慧は叫んだ。やる気にたぎった華凛のファインプレー。ベンチを出る間際に見せた燃えるような瞳は決して邪なものではなく、やはり純粋に勝ちたい気持ちの表れ以外の何物でもなかった。

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