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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
144/227

香椎東対柳川女子:夏27

 直子は気を取り直したようにいつもの調子で構えた。しかし、直後の緩い球を引っ掛けてしまう。

「いける、走れ直子!」

「あいあいさ!」

 瞬間、ベンチから叫んだ捺の声に応えつつフルスロットルで打席から飛び出す。ゆっくりと跳ねるボールは、猛然と突っ込んでくる三塁手の右手に収まりそのまま送球された。

「アウト!」

 間一髪だった。直子の足もかなりのレベルだが、素人目に見ても今のは守備が良かった、と慧は思った。

「やっぱり守備は固いわね……特にサード、あれは厄介だわ。サードの守備範囲には打たないようにした方が良さそうね」

 華凛が唸る。やはりあの三塁手は相当な実力者のようだった。

「ざんねん、惜しかったわね」

 直子に向かって叫んだ捺が、華凛の前を通り過ぎながら言った。そのままバットケースへ向かおうとするところを華凛が呼び止めた。

「捺先輩……あのキャッチャー、少し注意した方が良いかと」

 華凛の言葉に捺は足を止めた。

「確かに、面倒なことになってきたわ。二人とも、千春の打席、良く見てて」

「えっ……は、はい」

 捺に言われた通りバッターボックスに注目する。打席の千春は一球目、二球目ともにギリギリまでボールを見極め、何やら打ちづらそうにしていた。

「さっき直子先輩にビーンボールを使ったかと思ったら、今度は外角一辺倒……」

「ほ、ほんとだね……」

 華凛の呟きに慧は相槌を打つ。よほどボールが遠いのか、千春は見極める際に打席をホームベース側にはみ出してしまっていた。

「こ、これもキャッチャーのしわざ、なの……?」

 慧の質問に、華凛は眉間にしわを寄せた。

「恐らくそうね。執拗に同じコースを攻められると、バッターとしてはつい裏を考えてしまって対応が難しくなることがあるわ。千春先輩も今、いつ内角にボールが来るかと迷ってしまっているかも知れない」

 直後、捺が打席の千春に「外そのまま打ち返してオッケー!」とベンチから声を掛けた。

「あまりにも同じコースにボールが来ると、ありもしない対角線の残像が消えなくなってしまうの。千春、吹っ切れてくれたら良いけど」

「そうですね……ただ、打席はあくまでピッチャーと一対一になりますから。外からの声が届くかどうか……」

 少し焦ったように華凛は言った。その時、千春のバットは空を切った。どうやら最後の球は外角に落ちていくボールだったようだ。

「仕方ないか。守備に就きましょう」

 この切り替えの早さはさすがというべきか、捺はグラブを手にベンチをさっさと出て行ってしまった。華凛もそれにならってファーストミットを持ち出す。しかし、慧の中には不安の影が色濃く残ったままだった。

「ど、どうしよう……あのキャッチャーのヒトちょっと怖いし、これで追いつかれでもしたら……」

 慧の言葉に華凛は反応を見せなかったが、やがて一つ深呼吸をして言った。

「……大丈夫よ。一番手みたいに、要求の厳しいリードなら長くはもたないはず。それに、今はリードしてるんだからしっかり守っていけばそのまま勝ちよ」

「で、でも……」

 なおも不安の残る慧を、華凛の光る瞳が制した。

「大丈夫。あっちが勝つつもりなら、私達だってそれは同じよ」

 華凛の表情は真剣そのもの。その顔に、慧はそれ以上なにも言えなかった。

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