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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
143/227

香椎東対柳川女子:夏26

「ドンマイケイちゃん、この林氏にまかせなさい!」

 次打者の直子とすれ違い様、背中をポンポンと叩かれる。慧は意気揚々と打席へ向かうその後ろ姿を見て、どことなく不安な感じがした。

 あのキャッチャーの様子が気になる。あのぼーっとしているのか何か深く考えているのか分からない視線。そしてあの言葉。

 姉さん。姉さんとは、この試合ベンチウォーマーになっている鍛治舎玲央のことを指すはずだ。あの悪魔のような投球は、捺の推察が正しければもう見ることはない。しかし、妹は姉の意志を継いでこの試合に臨んでいるということか。ただそれだけのことなら特に問題はないはずなのだが、しかし何か引っ掛かる。

「慧、大丈夫?」

 不意に声を掛けられ、慧の思考は止まった。いつの間にか自分はベンチに帰って来ていて、目の前には華凛がいた。

「顔色悪いわよ。何かあったの?」

 華凛はこちらの顔をジッと覗き込んでくる。慧は思わず後ずさりをした。

「ちょっと、逃げるんじゃないの」

 華凛に腕を掴まれ、ベンチに座らされる。皆バラバラの位置に座っている三塁側ベンチにあって、一時だけの二人の空間が出来上がった。

「……あのキャッチャーに何か言われた?」

「えっ」

 慧は言葉を失った。どうしてベンチからそんなことが分かるのか。

「どうやら当たりみたいね」

「ど、どうして分かったの……?」

 慧の問いに、華凛はベンチの天井を見上げて言った。

「私も言われたの。というより、聞こえてきた、と言った方が正しいかしらね」

 華凛はそう言って、視線を天井からグラウンドへ移す。

「そ、それってどういう……」

「私がホームランを打ってホームベースを踏もうとした時、あの人「許さない」って言ったの。審判にも聞こえないくらいの小さな声だったけど、私には聞こえたわ。それでちょっと不気味だなって思って、それ以降の皆の打席で変わったことがないかチェックしてたの」

 華凛は前かがみで、両肘を脚に置いて腕を組んだ。

「慧には際どい球が三球続いたから、随分攻撃的なリードだなって思ったのよ。それに慧の様子もおかしかったし……案の定だった、ってワケ」

 蘭奈の言葉が思い出される。薄く囁かれたあの言葉は、どういった意味を含んでいるのか。

「わ、わたしが言われたのは……「姉さんの、邪魔をするな」って、一言だけ……あと三振になった後も何か言ってたみたいだけど、それは聞こえなかったな……」

「姉さんの、邪魔をするな……」

 華凛は慧の言ったことを反芻した。腕を組みながら何やら考え込んでしまった。

「華凛ちゃん、わたし、ちょっと怖いな……なんか、嫌な予感がするよ……」

「そうね。やっぱりちょっと不気味だわ。捺先輩にも話して――」

「うわっ!」

 瞬間、叫び声がして二人はグラウンドをハッと見た。直子がバッターボックスからはみ出していた。どうやら、ボールを避けた勢いでのけぞってしまったようだ。

「なるほど……向こうさん、どうやら何がなんでも勝ちに来るようね」

 華凛の声には緊張と、どこか剣呑な感じが含まれていた。

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