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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
141/227

香椎東対柳川女子:夏24

 五番バッター、ショートゴロ。

 六番バッター、ピッチャーゴロ。

 四対二の二点差へと追い上げられたところで、四回裏の柳川女子の攻撃はどうにか終了させることが出来た。

「良かった……とりあえずまだ勝ってる……」

 慧はグラブを胸に当てながらベンチへと帰った。とりあえず座って休憩したい。その後、自分の出番に備えて準備すれば良いか。今の守備を振り返っても良いかも知れない。そんな考え事をしている間にベンチに到着した。

「ごめん、豊。ちょっと入れ知恵が過ぎたわ」

「いや、部長サンが言ってることはこっちも薄々感づいていたっすよ。自分が攻め方を間違ったっす」

 ベンチでは、捺と豊が何やら話をしていた。豊の横には梓が無言で佇んでいる。

「どういうことです、捺?」

 千春が二人の会話に割って入った。つられて香椎東ナインが円陣を組むように自然と集まった。

「……あの、ライトフライを打った四番バッター、いるじゃない」

 捺の声に千春は無言で頷いた。他の皆も黙って次の言葉を待っているようだった。

「彼女、ポジションがサードなのよ。そしてさっきのトリプルプレー、簡単そうに見えたけど打球の速さとバウンドの中途半端さを見ると相当難しいプレーよ。それを彼女は顔色を変えずに処理した」

「……つまり?」

 千春は解らない、というように捺に回答を急かした。

「今日はキャッチャーに目がいきがちだけど、あのサードの四番バッターも同じように注意すべき人物だってこと。そのことをさっき守備が始まる前に豊に言ったのよ」

「そうっす」

 ここで今まで黙っていた豊が口を開いた。

「部長サン、いったいいつの間に仕入れたのか分からない情報を自分にくれたっす。スイングがやや外回りだとか脇が空き気味だとか。その情報と第一打席の様子から弱点は内角にあると見て攻め方を組み立てようとしたんですが……その前に出鼻をくじかれてしまって、方針が固まらないまま外野に打たれちゃったっす」

 出鼻をくじかれた、とは蘭奈のスリーベースのことだろう。豊は苦虫を噛み潰したような顔を見せているが、慧も似たような思いだった。他に要注意人物がいても、やはり一番注意すべきはあの蘭奈なのだ。

 その時、急に捺がこちらの方に振り向いた。

「慧、あなたこの回先頭でしょ。早く行かないと」

「えっ……あっ!」

 言われて慧は思い出した。捺の指摘通り、この回の先頭打者は自分だ。前の回のトリプルプレーの衝撃、守備で打球が来たことによる緊張感、その他もろもろですっかりそれが抜けていた。「すみません」と皆に謝り、急いでヘルメットを被りバットを持ちバッターボックスへ向かう。打席に入り一礼して、投手と向き合った。

 バタバタしたおかげか、いつも苦しめられている緊張はどこかに行ってくれている。慧はバットの握りを両手で確かめ、高く構えた。この打席でもやることは一つ、叩きつけて走る。それだけだ。

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