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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
138/227

香椎東対柳川女子:夏21

 トリプルプレー。

 一区切りの動作でイニングに必要な全てのアウトを取る、野球というスポーツにおいて最高級のアウトカウントの増やし方。

 つい今の今まで追加点の、ともすれば大量点のチャンスもあるかも知れないと息巻いていた香椎東ベンチは、一転、守備に就かなければならないという事実に声を失っていた。

「……仕方ないですね」

 皆と同じように固まっていた慧の耳に、抑揚をあえて抑えたような声が聞こえてきた。

「全く有り得ないプレーというわけではありません。切り替えていきましょう」

 声の主は千春。さすが生徒会も務めているだけあって、どのような状況でも冷静さを失わないのは見事だ、と慧は純粋に感心した。

「それにしても、今のプレー……」

 千春の呼び掛けに応ずるように、重苦しい声がする。それは捺の発したものだった。腕組みをして、何やら考え込む様子を見せている。

「どうしました、捺」

「……いえ、なんでもない」

 捺は小さくかぶりを振って帽子を被り直し、グラブを嵌めた。

「ごめんね、みんな。千春の言う通りとりあえず守備に就きましょう」

 やや早口で捺は皆を急かした。慧も被っていたヘルメットを脱ぎ、右手にグラブを嵌めてベンチを出ていく。ふと振り返ると、捺がベンチに戻って梓と豊のバッテリーに何やら話しているのが見えた。

「……捺先輩、なんだったんだろう」

 ライトのポジションへと走りながら思わず呟く。気にするな、という素振りを捺は見せていたが、香椎東の部長たる捺が何か考えている時は、慧の知る限り大抵が重要事項だ。ましてや局面が局面だけに、どうしても気になってしまう。捺本人でもないのに当事者にでもなったかのように頭を混乱させながらポジションに就き、外野のボール回しに参加し、やがて終える。

「ケイー! バックー!」

 途端に直子から指示が飛んだ。四回裏、この回の先頭打者はあの蘭奈だった。

「や、やばっ……!」

 慧はグラブを上げて直子に返事の意志を示しながら急いで後方へ下がった。ある程度下がったところで指示を仰ぎながら位置を微調整していると、やがて直子が丸印をくれた。

「なんか、ずいぶん下がったな……」

 慧は率直な感想を口にした。一塁手の華凛や二塁手の文乃、投手の梓や打者の蘭奈がやたら小さく見えた。

 しかし、それは逆に慧に安心感をもたらした。ここまで下がっていれば、少々の打球ならそこまで怖くないだろう――

「ひゃっ……!」

 直後、思わず慧は短い悲鳴を上げ、そして弾かれたように駆け出していた。

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