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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
134/227

香椎東対柳川女子:夏17

「おっ、ピッチャー替えるみたいだね」

 急に聞こえた直子の声で、慧は華凛と豊のやり取りに知らず見とれていたことに気づいた。

 ホームランの直後で分かり辛かったが、どうやらタイムがかかっていたらしい。グラウンドを見ると、柳川女子の内野陣がマウンドに集まっている。

「まさかとは思うけど、姉の方が出てきたりしてね」

「ちょ、それはマジでやめて欲しいな。あんな怪物打てないって……」

 冗談めかした捺の声に、直子が弱々しく反応した。横を見ると、千春や文乃も無言で首を横に振っている。

「まあ、仮に出てきても大したボールは投げられないでしょう。それよりこの二番手はどんなピッチャーなのかしらね」

「まあ見てな、天宮。俺が探ってきてやる」

 タイムがかかったことでベンチまで戻ってきていた清が、鼻息荒くヘルメットを被り直す。

「よろしく頼むわ、清」

「おうさ」

 捺の声に右腕を上げて応え、清は再びバッターボックスへと向かった。

「それにしても、この序盤で三点のリードは予定していなかったわ。ありがとう、華凛」

 捺が華凛の背後に回り込み、唐突に肩を揉み始めた。

「い、いえ……け、結果がでて……よかった、です……」

 華凛は捺の手を拒めず、感謝の意を述べながらもなすがままとなっていた。

「大逆転の功労者だからな。肩くらい部長にしっかり揉んでもらって……おっ」

 瞬間、直子が何かに気づいたらしくグラウンドに注目する。釣られて慧が同じ方向に目をやった時には、相手の先発ピッチャーが何故か頬を抑えながら今まさに退場するところだった。

「殴ったね」

 直子が剣呑な声を出す。

「えっ、どういう、ことですか……?」

 慧はたまらず直子に質問した。それに答えたのは捺だった。

「あちらのキャッチャー、交代になったピッチャーがベンチに引き揚げようとする寸前にぶったわ。右の平手打ち。綺麗に入ったわね」

 殴った……? 慧には捺の言葉が一瞬理解出来なかった。

「うーん、気合い入ってるのは分かるんだけど、ちょっと怖いね」

 溜め息混じりに直子が言う。怖い。直子が口にしたニュアンスではなく、慧は純粋にその行為を怖いと思った。

 スポーツで人が人を殴るなんて、男子の、それも強豪校の話、半分おとぎ話だと思っていた。だって少なくとも、このチームではそんなこと有り得ない。このチームに人を殴るような人なんていない。

 そんなことをこんな大事な試合中にやってしまう蘭奈とはどういう人間なのだろう。慧は第二打席には立ちたくないと本気で思った。

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