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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
133/227

香椎東対柳川女子:夏16

 慧の目は、天に昇ろうと勇ましく駆けているかのようなひとつのボールがみるみるうちに僅かな点ほどにまで小さくなっていく様を捉えた。

 ボールは澄み渡る大空の下、きれいな放物線を描いた。

 そのあまりの美しさに見とれ、慧はたったの一瞬を永遠のように長く感じてしまいそうになったがすんでのところで止まっていた息を吹き出す。

 それと同時にボールはレフトスタンドに着弾した。その瞬間、今試合で一番の大歓声が沸き上がった。

「や、やった……」

「華凛ちゃんやったあ!」

 豊が、文乃が悲鳴のような声を上げる。部員の半分以上がグラウンドに出払っていて閑散としている香椎東ベンチは、それでも一気に熱を帯びた。誰とも知らずベンチを飛び出し、帰ってくるメンバーを迎え入れる。

 直子も、千春も、捺も満面の笑みで皆とハイタッチを交わす。そして、その三人から僅かに遅れて大歓声の立役者が帰ってきた。

「伊勢崎サンやりましたね! 初球からいった時はどうしたことかと思いましたよ!」

 飛び跳ねそうな勢いで豊が華凛の背中を叩く。慧もそのどさくさに紛れて華凛の正面に位置取りした。

「か、華凛ちゃん、ナイスバッティングっ……!」

 無言で手を向けてくる華凛とハイタッチを交わす。ようやく合わせることのできた目は優しい、安堵の目をしていた。

「ちょっとした賭け……だったけど、どうにか上手く打てたわ」

「賭け?」

 豊が興味津々と言わんばかりに身を乗り出してくる。意図せず揃った二年生トリオの中心で、華凛はふうと息を吐いた。

「捺先輩は敬遠気味とはいえ、ストライクなしで歩かされた。その直後の一球のサインがどんなものであれ、投手心理としては気持ちがストライクゾーンに傾くはずだと思ったの。直子先輩、千春先輩が早いカウントで勝負していたのもヒントになったわ。だから初球は甘いコースだけに絞って、あとは集中して待つことにした。ちょうどボールが良いところに来てくれたわ」

「なるほど……読み勝ち、てとこっすね」

「まあそういうこと」

 またひとつ、息を吐く。次の瞬間、華凛の顔からは優しさが消えていた。

「とりあえずこれでリードね。しっかり守っていきましょう」

「その通りっすよ。相手さんに負けないくらいエグみのあるリードをしてやるっす」

「アンタ、言葉が汚いわよ……まあとにかく、叩き潰して勝ちましょう」

「いや、そっちは言葉がキツいっすよ」

「そうかしら」

 華凛と豊の他愛ないやり取りに、慧は思わずひとり笑みを浮かべた。

 なんて頼もしい仲間。

 自分もこの輪に素人としてじゃなく普通に加われたら、どんなに素敵だろう――

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