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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
132/227

香椎東対柳川女子:夏15

「ボール、フォア!」

 響き渡る球審の掛け声。捺はゆっくりとバットを置き、何事もなかったかのように一塁へと向かう。しかしその姿にはどこか無念さのようなものがあるように慧には見えた。

「あちらさん、部長サンのことが相当怖かったようっすね……それにしてもここまでするか……?」

 手に汗が滲んだのか、しきりに手もみをしながら豊が言う。

 確かに今のフォアボールは塁を余計に埋めてしまった。しかし、これは本当に勝負を避けた結果だったのか。単純に相手も緊張したことによりコースが定まらなかったのではないのか。そう考えるとチャンスな気もするが――そこまで考えたところで、豊がこちらの顔を覗き込んできた。

「若月サン、アンタ、これは本当に敬遠か、とでも言いたげな顔っすね」

 慧は心臓が飛び出そうになった。いくら洞察力の大事なポジションだからって、味方まで洞察しなくても良いだろうに。

「い、いや、そんなことは……!」

「まあ良いっすよ。でもね若月サン、今行われたのは明らかに敬遠っす。ピッチャーがコントロールを乱したのでも何でもない。経験者が見たらイッパツで分かるっすよ」

 豊は前のめりになりながら早口でまくし立てる。

「じゃ、じゃあ満塁になるのも、相手にとってはしょうがないってこと……?」

「まあ、そういうことっすね。満塁にしてでも天宮捺というバッターは避けた方が良い、と向こうのキャッチャーが判断したんでしょう」

 慧は蘭奈に視線を移す。三塁側ベンチからではキャッチャーマスクを被った蘭奈が何を考えているかは当然ながら分からない。しかし、その座り姿を禍々しいオーラのようなものが纏っている気がして、慧はすぐに視線を逸らした。

「そして、本人にとってはシャクでしょうが、四番の方が打ち取りやすい、とあのキャッチャーは言っていることになります。しかしこうなってくると、こっちとしてはもう伊勢崎サンに頼るしかないですが……」

 落ちたトーンで豊は語る。無念を感じた華凛の悲しむ顔が慧の脳裏に映し出された。

「焦る必要はないっすからね。じっくり、じっくり……」

 グラウンドに視線を向けながら、豊は自分に言い聞かせるように繰り返した。そんな彼女に普段の冷静さは感じられない。もはや慧はただ祈るしかなかった。今、打席に立った少女が結果を出すことを。慧は華凛の背中を見て呟いた。

「頑張れ、華凛ちゃん……」

 その時、相手投手が無機質に初球を投じた。

 直後、慧の目に飛び込んできたのはフルスイングする華凛の姿だった。

「ばっ、か……! なんで初球から手を……!」

 隣からは悲鳴じみた声。瞬間、ベンチは総立ちになり打球の行方を追った。

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