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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
129/227

香椎東対柳川女子:夏12

 直後、慧の目は三塁線を遠慮がちに転がるボールを捉えた。ファールゾーンに出る気配はない。それなら走らなければ。

 そう直感した次の瞬間には慧は駆け出していた。理想に比べて随分惨めな転がし方だが、それでもボールは転がった。直子のアドバイスが活きた。後はひたすら向かうだけ。一塁ベースを陥れるだけ。

 慧の目には慌てた様子の一塁手、そして中腰の姿勢を取る塁審が立て続けに飛び込んでくる。一塁手が手を上げる。ボールが来る合図か。しかしそれより速く辿り着ければ――

「アウト!」

 塁審の声が、今まさに一塁ベースへ到着する寸前に響き渡った。やられた。慧は駆け抜けてから観念してペースを落とし、俯きながらベンチに戻る。

 しかし誰かがこちらを見ている気がした。顔を上げると、蘭奈と目が合った。慧がアウトになったにもかかわらず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。睨みつけられているようで良い気分がしない。

 なんかヘンな感じで目をつけられちゃったな――落ち込んだままベンチに戻ると、皆が待っていた。

「す、すいませんでした。あんなボテボテな当たりで……」

 俯いたままボソボソと喋ると、何故か拍手のような、乾いた手の音が返ってきた。

「慧、惜しかったわ。次の打席はいけるかもね」

 捺が肩をポンポンと叩く。他のメンバーも皆、一様に「惜しかった」という言葉を口にした。

「慧、ナイスランよ」

 華凛が近づいてきて言った。どういうわけか、少し楽しそうにしている。

「妹さんの顔、見た?」

 見た、と言われれば確かに見た。慧は率直な感想を伝えることにした。

「う、うん……こわかった……」

「ボールが転がった直後は随分のんびりとしたものだったけど、慧が走るのを見て慌てて動き出したの。よっぽど慧の足に驚いたみたい。セーフになってくれればもっと爽快だったんだけどね」

 その華凛の言葉で気づいた。自分をアウトにしたのは蘭奈だったのか。

「……でも、改めて要注意ね」

 華凛は急に低い声を出した。

「あのキャッチャー、本気の動きと肩は一級品ね。特に肩。慧じゃなかったらもっと余裕でアウトだったわ」

 華凛もまた、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。それほど香椎東にとって蘭奈が脅威になりえるということか。

 だとしたら、蘭奈から見て自分は脅威? いやいやそんなばかな。ちょっと走っただけで要注意人物としてチェックされるなんて、なんて恐れ多い――などと自分にとって都合の良い妄想をしていたら「ナイスバッティング!」という声で香椎東ベンチがわっと沸いた。

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