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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
127/227

香椎東対柳川女子:夏10

 小走りで打席に入り、急いで地面をならそうとするが、既に何人もの打者が立った影響で窪みが出来ている。目で見ればそこまで目立たないが、立った感覚からすると足首まで隠れそうな穴だ。

 九番打者である慧はいつも他人が作った窪みに足を置いている。今回も自分で整備し直すのは難しそうなので、諦めていつも通り左足を窪みに嵌め込んだ。

 その時、ふと誰かに見られている気がして目線を足元から左に向ける。そこには、キャッチャーである蘭奈がいた。感情のない目でこちらを見ている。慧は蘭奈と初めて目を合わせた。

 慧はとたんに息苦しくなった。打席を外して準備し直したい。いや、この場は棄権してベンチに帰りたい。そう思ってしまうほどの無言の圧が蘭奈の視線にはあった。

 いや、集中集中――そう思い直してピッチャーに向き直り、バットを構える。既に投球姿勢を整えていた相手投手は、慧が構えたのを見ると機械的に一球目を投じた。

「ストライク!」

 外角低め。際どいコースの判定に自信はないが、恐らくギリギリ一杯のはずだ。この精密なコントロールが、香椎東のバッター達を苦しめている要因か。

 しかし、慧が得た感覚は攻略の難しさを示すものではなかった。もしかしたらいけるのでは、率直にそう思った。

 なぜなら、慧の頭の中にはまだ玲央のあの圧倒的なボールが残っていたから。速く、重く、その一球一球がとても手など出せそうもない最高品質。そのイメージを持った後に見た今のボールには、少なくともあの日感じた脅威はない。

「けいー、ファイトー!」

 ベンチから仲間達の声が聞こえる。もしかしたら、こんな自分でもやれるかも知れない。汗の滲む手で、ぎゅっとバットを握り直した。

 二球目。

「わわっ……!」

 瞬間、慧は思わずのけぞった。内角の、そのまま立っていたらデッドボールになったかも知れないほど際どいコースにボールが来たのだ。判定はボール。カウントは、ワンボールワンストライクとなった。

「あ、危なかった……」

 バットでホームベースを少し触り、気を取り直して構えようとする。

 次の瞬間。

「その位置で良いの……?」

 冷たい声が慧に届いた。思わず息を止め、声のした方を見る。声の主は、蘭奈だった。

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