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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
124/227

香椎東対柳川女子:夏7

「オッケー、まず一点取ろう!」

 香椎東ナインはお互いに声を掛け合いながらベンチへ戻る。

 そんな中、普段なら緊張の初回を終え徐々に調子が出てくるはずの慧の足取りは重かった。

 先制されたという事実もそうだが、この初回の攻防で慧が見たものはそのどれもが心に多大な疲労感を与えるものだった。

 簡単に打ち取られていく仲間達。狂いのない圧倒的投球をものともせず安打を放ち、堅い守りをかいくぐって本塁を陥れる姿。どれもが慧にとって思い出したくないくらいに不気味なものだった。

 そして、その中心にいるのは間違いなく蘭奈。今、香椎東は彼女に押されているということなのだ。これまで予選を力強く勝ち進んできた頼りになる仲間がたった一人に圧倒されるなどにわかには信じがたい。

「慧」

 ふと、自分を呼ぶ声がした。そのお陰で、慧は自分がベンチに立ち尽くしたままずっと俯いていることに気づいた。

「どうしたの、浮かない顔して」

 慧を呼んだのは華凛だった。試合は既に二回表が始まっていて、打席には五番打者である清が立っていた。

「ここからまたスタートよ。打席が回ってくるまで先輩を応援しましょう」

 華凛は積極的に声を出し、打席の清を鼓舞した。慧は少し逡巡してから、華凛に問い掛けた。

「あ、あのキャッチャーのヒト……どう思う?」

 華凛は少し驚いたように慧を見た。何か不審なことを言ったか、と慧はとっさに考えを巡らせたが、何がおかしいか分からない。

「慧、まさか気づいているとはね」

 慧に向けた目線をグラウンドに移し、華凛は続けた。

「鍛治舎姉妹の妹、蘭奈……姉の玲央がいないからくみしやすし、と私は思っていたけどそう甘くなかったみたいだわ。あの妹、お姉さんがいないことで逆にプレイが研ぎ澄まされてる。配球にも打席にも隙がないわ」

 どこか冷たい声で華凛は言い放った。どうやら、慧が感じたような不穏な感覚を華凛もまた感じ取っていたらしい。

「バッティングも、走塁も、すごかった……わたしたちは本当に勝てるの?」

 思わず、慧は思っていたことを口にした。この試合の顛末に関わる重要なことを。華凛は、そんな慧の声に少し黙ってから、ゆっくり話し始めた。

「私は、勝算はあると思ってる」

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