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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
122/227

香椎東対柳川女子:夏5

 マウンド上の梓が三球目を投じる。瞬間、その速いテンポがまるで自分の不安を打ち消してくれているようだと慧は感じた。

「ボール!」

 外角低め。バッターによってはストライクと判断し手を出していたであろう、非常に厳しいコースだ。

 しかし、蘭奈はそれを悠然と見逃した。まるでボールだと初めから分かっていたかのように。そうでなければ自分の打席の結果に興味がないかのどちらかだ。

 いずれにしても不穏だ。こんなに遠く離れているのに、慧はまるで背後に立たれているかのような気味の悪さを感じた。

 そんな様子を知ってか知らずか、梓はすかさず次の投球を開始した。乱れのないフォームから繰り出されたボールは気持ち良くキャッチャーミットを鳴らす。そのコースは、外野から見たら三球目と全く同じだが、恐らく微調整したのだろう。前球よりは内側、つまりストライクゾーンに寄ったはずだ。

「惜しい惜しい、ナイスボール!」

 香椎東ナインの声がこだまする。判定はまたもボールだった。そして、蘭奈はバットをピクリとも動かさなかった。

「あのヒト、こわい……」

 知らず、慧は呟いていた。梓が解消してくれたはずの不安は、逆に増大した。

 五球目。機械のように梓がボールを投げ込む。またも同じコース。厳しいところをこれでもかと突いていく。

 直後、キン、という金属音と「レフト!」という指示の声がほとんど同時に慧の耳まで届いた。

「くっ……そぉ!」

 ライン上に鋭く落ちたボールに清が追いつき、掛け声と共に中継へと返球した頃にはもう蘭奈は二塁を陥れていた。

「ドンマイドンマイ、次打ち取ろう!」

 主将の捺を起点に、香椎東ナインは全員で声掛けする。慧も同じように声を出し、そして一呼吸置いてから思わず身震いした。

 恐るべきは蘭奈の打撃技術。ストライクとボールの狭間を極限まで見極め、ストライクに入ったと見るや否やしっかりと芯で捉えた。自分だったら見逃した二球は絶対に手が出ている。そしてあえなく空振り三振に倒れたはずだ。

 戸惑う慧をよそに、再び金属音が球場に轟いた。

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