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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
120/227

香椎東対柳川女子:夏3

「しょ、勝負、しない……?」

 慧は声に出して直子に聞き返した。

「まあ、あくまで可能性だから分からないけどね」

 そう言った直子の声はしかし、若干の緊張が伴っているような気がした。

「とりあえず、せっかくランナーが出たんだ。今はウチの四番を応援するとしようか」

 直子はグラウンドに目を向け、それ以上は何も言わなかった。その横顔は何かを思案しているようで、慧は話し掛けることが出来なかった。

 しかし、今は華凛を応援すべきというのはその通りだ。慧はバッターボックスに立つ華凛に目をやった。

「いけー、華凛!」

 香椎東ベンチ全体からチームの四番打者に対して声援が送られる。打席の華凛はいつもと変わらないように慧には見えた。その優美な立ち振る舞いには、相手投手のクセ球をあっさりと打ち砕き大歓声の中悠々とグラウンドを一周して帰ってくるのではないかと錯覚させられた。そんな慧の思いをよそに相手投手が淡々とボールを投げる。一球、また一球。ボール球が続き、カウントはツーボールノーストライクとなった。

「よしよし、バッター有利!」

 隣の直子がバッターボックスに向かって声を掛ける。慧の期待はより一層膨らんだ。

 ボール球が続いた時は次に甘い球が来ることが多いのは野球の常識。慧は入部してからそう習ったし、だからこそ直子も華凛に今が有利だと声を掛けているのだろう。それなら、今の華凛には明らかなチャンスが来ている。

「華凛ちゃん、がんばれ……!」

 慧が勇気を振り絞って声を出した次の瞬間、力感なく放たれた相手投手のボールに対して華凛がスイングした。

 キン、と鳴った金属音はしかし、力ない。フラフラと上がった打球はピッチャーの頭上。やがて落ちてきたボールは捕球され、スリーアウトとなった。

「そ、そんな……」

 相手投手のグラブにボールが収まった瞬間、慧はこの真夏に、背筋が冷えるのを感じた。

 華凛までもが簡単に打ち取られてしまった。しかも打者有利のカウントで。

 まだたったの一回にもかかわらず、この先得点出来るイメージが湧いてこない。得体の知れない不安が慧を襲った。

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