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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
119/227

香椎東対柳川女子:夏2

「っしゃあ!」

 気合いのこもった掛け声と共に放たれた直子の打球は緩くサードの前に転がり、一つ目のアウトとなった。直子は釈然としない様子でベンチへ帰ってくる。

「どうだった?」

 捺がバットを手に取りながら直子に聞いた。直子は首を傾げながらヘルメットを脱ぐ。

「なんつうか、こっちのツボを押さえられた感じ。球自体は大したことないように見えるけど、狙い球から微妙に外れたとこ突かれたり、苦手なコースに来たり、掴みどころがないなあ」

 直子は頭をかきながら報告した。その様子に慧はある種の不気味さを感じた。明朗な直子がこんなにも腑に落ちないような態度を取ることはなかなかない。

「そうすると……恐らくキャッチャーのリードね」

 捺は視線をホームベース付近へ向けて言った。そこには淡々とした様子でピッチャーにサインを出す、マスク、レガース、プロテクターで完全防備をした少女の姿があった。

「妹の方は健在ってことね」

 やりがいがあるじゃない、と言わんばかりに捺はヘルメットを素早く被ってベンチを出た。入れ違いのように二番打者の千春が帰ってきた。

「今日のピッチャー、仕留められそうに見えて上手く急所を外してきます。早めに対策を打たないとズルズル行くかも知れません」

 苦虫を噛み潰したように言うその姿を見て、慧はさっきの直子と同じだと思った。

 一つ分かったのは、今日のピッチャーは厄介だということだが、慧は少し引っ掛かった。捺はベンチを出る寸前、キャッチャーに注目しているように見えた。もしかしたら問題はピッチャーにあるのではないということか。

「まあ、こうなったらウチのキャプテンに攻略法を伝授してもらおうか」

 直子がそう言ってバッターボックスを見た。そこには捺が悠然と立っていた。

 このチームの要は捺だ。困った時は捺が導いてくれる。捺の人間離れした打力を直に見てきた慧は、ツーアウトを取られてチームが落ち込む状況でありながら、自分が高揚していくのを感じた。

 捺先輩、がんばれ。そう祈った時、相手投手が一球目を投じた。

「ボール!」

 球審の宣告がこだまする。直子や千春に投げた球とは違う、外角に大きく外れたボールだった。

 続く二球目。ピッチャーが無表情で投げる。ボールは一球目と同じように外側に外れた。

「なんだろう、急にコントロールがへんだ……」

「そうだね、ケイちゃん。これは妙だ」

 思わず出た独り言に直子が反応した。

「捺はウチのチームの中でも別格だ。相手さんは秋の試合でそのことを感じ取っていたかもだね。その情報を押さえているなら……」

 直子は言葉を溜めた。捺はすでに三つのボールカウントを集めている。

「相手さん、今日は捺とは勝負しないと決めている可能性がある」

 直子の言葉に、慧は独り言を聞かれた恥ずかしさも忘れ目を見開いた。次の瞬間、四回目のボールの宣告が球場内に響いた。ストライクは、一球もなかった。

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