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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
117/227

あっという間

 それからの日々は、慧にとって緊張の連続だった。

 フライ、ゴロ、ライナー。慧の守るライトのポジションにはありとあらゆる種類の打球が飛んできた。容赦なく襲い掛かってくるそれを慧はどうにか受け止めたが、時にはエラーもした。

 やっとの思いで守備を終えたと思ったら、今度は攻撃のターンで逃れられない苦しみを味わった。一試合に三打席から四打席は必ず立たねばならない。満塁のチャンスや接戦時の大事な場面で回ってくることもあった。

 慧はこれらの試練を半ば無心でこなした。目の前の結果に一喜一憂したくても、常に心にある緊張感が全てを覆い隠し、安堵も心配も出来ない。慧はその巨大な敵から逃げるように、わき目を振らずプレーした。

 気づけば、香椎東高校は準決勝まで勝ち上がっていた。

 たったの四校にまで絞られたこのトーナメント。泣いても笑っても、あと三試合で全てが決まるところまでいつの間にかやって来ていた。

 そして試合当日。

 ベンチ内で慧はふと思考した。せっかくここまで来たのなら、もう悔いのないようにやろう。どうせ次の試合も緊張するのなら、いっそ堂々とやれば良い。

 でも、出来るだろうか。そんなことが自分に。どうせ緊張に負けて、いよいよ潰されてしまうのではないか。特に守備の重圧は凄い。尋常じゃない速度で飛んでくるボール。その質感、硬さ。後ろには誰もいないという恐怖。それから逃げようと周りを見渡しても、逆に見られている。会場の全員に見られている。

 そこまで考えて慧は頭を抱えた。やっぱり不安になっている。これでは今日もまともに戦うなんて無理だ。一瞬でも緊張を前向きに捉えようとした自分がもう遠い過去の誰かのようだ。

「どうしたの、慧?」

 慧の頭の中だけで行われていた堂々巡りは、外からやって来た声で終了した。声を掛けてくれたのは華凛だった。

「さ、そろそろ出るわよ。整列の時間だわ」

 気づけば、三塁側ベンチに陣取った香椎東高校の面々は準備万端だ。頼もしい仲間たちが今日もいる。慧は少し嬉しくなって一塁側を見た。

 柳川女子。秋の大会で香椎東高校から勝利をもぎ取った県内屈指の強豪校が今日の相手だ。

 このチームのストロングポイントはキャッチャーの蘭奈を中心とした固い守り。そして、エースである玲央の存在である。特に玲央の投球は圧巻だった。今の香椎東高校はあの時よりきっと強い。とは言え、果たして今回は勝てるだろうか。手に汗をじわりとにじませ、相手側のベンチを眺める。

 その時、急に嫌な予感がした。何だか良くないことが起こるような、勝ち負けとは別のところでこの試合が荒れるような、そんな予感。いったいなぜ、何を見てこんなことを感じたのか。慧は不思議で、不安でならなかった。

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