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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
108/227

香椎東対久留米国際4

 窮屈そうに直子はセットポジションを取る。

 半身に構えるその様を見て、本来なら思いっきり振りかぶって投げたいのだろうと慧は想像した。なんとなく直子が可哀想に思えた。

 しかし、走者が出てしまった以上そうもいかない。相手も地力があるのか、急造とはいえ野球に関する応用力の高い直子を苦にしていないように見える。

 また飛んで来たらどうしよう。ここは内野ゴロでゲッツーが最も良い形だ。いや、打球が前に飛んだらここまでやってくる可能性がある。それなら全て三振で終わった方が良い。そんなことを考えていたら直子が初球を投じた。

 バッターは手を出さない。判定はボール。少し考え事をしていたらもう投げている。ランナーを背負いながらも、行いに躊躇がないのはさすがだ。

 直子はらしさが出てきたのか、すかさず第二球を投じた。

 直後。キャッチャーミットに収まらず綺麗に飛んだ打球は、今度は右中間に向かった。久留米国際に対する歓声で会場が沸く。

「また来た……!」

 思わず呟き、慧は走った。ライトを守るのは梓。今日は立っているのもやっとであろう梓に動いてもらうのは心苦しい。となると、やはり自分が向かわねばならない。

 なんという日だ。慧は全力で体を動かしながら憂鬱な気持ちになり、回り込んでボールを押さえる。

「けいちゃん、こっち!」

 セカンドの文乃が手を振ってアピールする。慧は今度は文乃に中継した。文乃はすかさず三塁へ送球する。三塁をオーバーランしたランナーは慌てて引き返し、サードベース上でタッチプレーとなった。

「セーフ!」

 塁審のコールがこだまする。三塁セーフ。その間に打者走者は二塁ベースまで到達していた。

 久留米国際側からは歓声が上がり続けるこの状況はどうあれ、慧は少しだけ安堵した。アウトとはいかなかったが、初回と違い、今回はどうにか三塁でストップさせることが出来たからだ。

「良かった、点にならなかった……」

 慧は背中を丸めながら元の守備位置に戻り、またやってきた緊張から逃げるように少し胸を押さえた。ノーアウト、ランナー二、三塁。バッターは八番。得点にはならなかったが、ピンチなことには変わりない。現在二対一。ついさっき逆転したのにまた逆転されそうだ。

 慧はチラリとライト方向を見る。結局は慧の守備範囲だったものの、カバーに走った梓は相当体力を削られたのではないか。慧の送球直後に近くにいた時には普段の梓らしく何も話さなかったが、息は確かに切れていた。

 レフトの清は守備が苦手だと日頃から自称している。そしてセンターの慧は、チームの中で一番下手くそだという揺るぎない自負がある。

 外野の状況、まずいです――心の中で呟いた時。またも打球が飛んできた。まるで悪夢のよう。ライナー性の打球は、今度は慧の元へ直接向かってきた。慧は無心でボールに向かう。ワンバウンド目、そしてツーバウンド目。その瞬間慧はグラブを差し出す。

「あっ――!」

 思わず慧は短い悲鳴を上げた。

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