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ハードシップメークス  作者: 小走煌
12 夏の大会
106/227

香椎東対久留米国際2

 真っ先に襲ってくるのは恐怖。

 足がすくむのは当然だ。目にもとまらぬスピードで迫ってくるボールは、取り損なって手首にでも当たろうものなら失神するほど痛いだろう。更に言えば、ここは外野。トンネルすれば一気に大ピンチ。まして自分は素人同然。怖くなって当たり前だろう。

 そんなボールに向かっていって、ミスをしたら事だ。どうせボールはすぐにここまでやって来る。それなら下手に出向かずずっと待っていた方が良い――そんな堕落の考えを慧の両足が制した。

 一度は差し出したグラブをすかさず収めつつ、まるで足から命令されたかのように慧は前に出る。迫り来る打球に数歩近づいたところで改めてグラブを構えた。

 待たずに前に出たのは、日々の練習で直子に教えられたためか、はたまたイレギュラーバウンドを本能的に恐れたのか。その両方かも知れない。慧は前に出ることが出来た自分に驚きながら、瞬間的にそんなことを思った。

 コンマ秒ごとに打球は距離を縮めてくる。慧はそれに合わせてグラブの位置を微調整する。勢いの衰えないボール。フェンス際まで行こうかという気勢を放つそれを――慧はしっかりと捕球した。

 やった。心の中でガッツポーズしながら、ここに頂戴と言わんばかりにグラブを掲げている捺へとすかさず送球する。

 心臓の音は鳴りやまない。しかし慧は、最初の仕事をやりおおせた。これが最初で最後の打球であって欲しい。そう願いながら状況を確認した。

 ツーアウト、ランナー一塁。バッターは四番。ここを打ち取れれば気持ちは落ち着くが、果たしてどうなるか。なに、直子先輩ならきっと大丈夫。少なくともセンター以外のところに打球が飛んでくれれば。

 そう考えていた次の瞬間、現実を見せつけるように今度はフライ性の当たりが飛んできた。

「わわっ……!」

 反射的に慧は駆け出していた。この打球は正確には慧のところへ来ていない。空を飛ぶボールの行きつく先は自分から見て右側。レフトを守る清との間。左中間への打球だ。

「行け、若月!」

 清の叫び声が聞こえる。打球はどちらかというとセンター寄り。清からは間に合わない位置だろう。つまり自分が捕らなければならない。胃がはちきれそうになりながらも、始まってしまったボールとの競争に向き合わなければならなかった。

「と、遠い……!」

 スタート地点では何十メートルもあるはずのハンデがあっという間にチャラになる。ボールはあっさりと慧の頭上を通り過ぎ、フェンス手前で跳ねた。

「若月、中継に投げろ! 早く!」

 横から急かしてくる清の声はやたらハッキリ聞こえてくる。着弾し地面を転がるボールにどうにか追いついた慧は、指示に従い出来る限りの早さで捕球から送球の動作を行った。

「オッケー慧、良くやったわ!」

 気づけば肩の弱い慧が投げられるギリギリの位置まで詰めていた捺が、送球を受けるなりそう言って大遠投した。

 それは、一塁から一気に本塁を陥れようとしたランナーを刺すため。捺の送球は強く、正確に本塁へと向かった。

 しかし、捺のボールはホームベースへ届く前にカットされた。それより先に一塁ランナーがホームインしてしまったからだ。

 一点。早くも久留米国際高校に点が入った。

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