怒り
「許さない!!」
ダンッ!
毛を逆立て、ルイノルドは床に拳を叩きつける。
会議の広間でそれは伝えられた。
“魔王陛下!フォリンの村が勇者によって消されました!”
「よくも私の故郷を!父を!母を!村の皆を!」
目に涙を溜めてルイノルドは激情する。
他の会議参加者は、そんなルイノルドに声を掛けられずにただ眉を下げて見つめるしかなかった。
「魔王陛下!いますぐ私に勇者の討伐への許可を!」
「ルイノルド、今のお前には行かせられない」
「なぜ!?」
「怒りに身を任せた戦いで勝てるほど勇者は弱くないからだ。お前もよくわかっているだろう?」
「くっ…!」
ルイノルドは悔しそうに顔を歪める。
「冷静になれ」
「はい…。申し訳ありませんでした。少し頭を冷やして参ります」
魔王が頷くのを確認し、ルイノルドは広間から退出した。
扉が閉まる音の後、他の側近はおずおずと魔王に進言する。
「魔王陛下。ルイノルドは確かに今は怒りで我を見失っておりますが、すぐに冷静になるでしょう。冷静になった後に、勇者討伐へ向かわせてはどうでしょうか?」
「わしもその考えに賛成です。平常なルイノルドであれば勇者に勝つことができると思います」
「あやつの仇を討ちたいと思う気持ちは痛いほどわかります。どうか行かせてやって下さい!」
魔王はそれぞれの顔をじっとみる。
そして、首を横に振った。
「すまないが、ルイノルドを行かせてはやれない。万が一ルイノルドが死ぬことがあれば、こちらの戦力も大きな痛手を負う。それに、フォリン村まで勇者が来たということは直にこの城に辿り着くだろう。万全の体制で向かい打ちたい」
魔王の言葉を聞き、側近たちは自分たちも冷静さを欠いていたことを知る。
「一時会議を中断する。日が沈み次第再び集まれ」
魔王は会議広間を後にした。
終わりは近い。
勇者、俺たちに残された時間はもう---------。
運命の歯車は速度を上げて回りだした。
二人の未来に安寧はあるのか、まだ誰にもわからない。