シルフィアとディアロ
「いったぁ...。なによこの穴は....」
今日は私の誕生日。12歳になったお祝いに、村の友達が家に集まってパーティを開いてくれる。
準備を手伝おうとしたのに、家族や友人から家を追い出され、時間になるまでどっかで暇をつぶすように言われてしまった。
しょうがないので、近くの湖にでも馬のリリアンと散歩に行こうとし、森を走っていた途中で綺麗な花を見つけ、摘み取ろうとしたところ深い穴に落ちてしまったのだ。
「ついてないなぁ、もう」
落ちた時に足を捻ったのか、鈍い痛みがあるが我慢できなくもないため、壁を登るかと思い上を見上げる。
「...嘘でしょ」
しかしそのあまりの高さにシルフィアは茫然とした。
例え身体が無傷であったとしても、どう頑張っても登れる気がしない。
これはやばいと一瞬考えたが、シルフィアはリリアンのことを思いだした。
「リリアーン!!お願い!誰か村の人を呼んできてちょうだい!!」
大声で叫ぶと、小さく馬の鳴き声が聞こえ、駆けていく足音が大地に響いた。
賢いリリアンのことだ、きっと助けを呼びに行ってくれただろう。
シルフィアは安心すると、地面に座り込みボーっと上を見上げる。
穴の上に広がる空は青一色で、雨が降る心配はいらなさそうだった。
しばらくそうしてシルフィアが空を見上げていると、ひょこっと誰かが穴を覗き込んだ。
「あっ!そこの人!助けて!落ちてしまったの!」
もう人が来るなんて!リリアンが呼んできてくれたのかしら?
あまりに早い人の到着に驚きながらも、シルフィアは助けを求める。
逆光で顔がよく見えないが、身体的に自分と近い年の少年で、何かお面のようなものをしているようだった。
「...ダン?それともカイル?」
「俺はダンでもカイルでもない」
「え...?じゃあ、あなたは誰?」
「ディアロだ」
ディアロ...?小さい村だ。知らない人などいないはずなのに、シルフィアはその名を聞いたことがなかった。
となると、この少年はどこかの村から来た者なのだろう。なんの名産もない村に来客とは珍しい。
「ディアロ、初めまして!私はシルフィアよ!穴から落ちてしまって登れないの!助けてくれないかしら?」
「ふむ....。少し待て」
ディアロはそういうと、サッと穴へと飛び降りてきた。
「ええっ!?」
助けてほしいと言っているのに、なぜ飛び降りてくるの!?
シルフィアは驚きつつも、落ちてくるディアロを避けるように咄嗟に壁の横へ飛びよけた。
ディアロは音もなくふわりと地面に着地する。
「どうしてあなたも落ちてくるのよっ!?」
「はて...?助けて欲しいのだろう?」
「それはそうだけど!何かロープでも落としてくれれば良かったのに、あなたも落ちてしまったらダメじゃない!?」
「どこがダメなのだ?」
「あぁっ...どうしてわからないのかしらっ...」
茶色の髪に狐顔のお面を被った少年...ディアロは、キョトンとしたように首を傾げて不思議そうにシルフィアを見る。
「ほら、助けてやるから俺に掴まれ」
「え...?」
ディアロは、シルフィアに向けて腕を広げる。今度は、シルフィアがキョトンとして不思議そうにディアロを見る番だった。
続きます